みどころ

展覧会概要

南米コロンビア生まれの芸術家フェルナンド・ボテロ(1932-)。1950年代後半から注目を浴び始め、今日では現代を代表する美術家の一人に数えられています。

彼の手にかかると、楽器や果物、動物、さらにはあのモナ・リザさえもが、丸くふくよかな姿となって現れます。ボテロ作品のふくらみが持つ形の豊かさは、「観る者を突き動かすような官能を伝える」というボテロの言葉通り、ユーモアやアイロニーなどさまざまな要素を絡めつつ、生の喜びを湧き上がらせてくれるような魅力を持っています。

一度見たら忘れられなくなるボテロ・スタイル誕生のきっかけは、ボテロ24歳のとき。ある日、マンドリンを描こうとしたボテロは、楽器の音響孔を、実際よりも小さく、黒い点のように描き入れました。すると、その小さな孔との対比によって、マンドリンの丸いボリューム感がより際立って表れてくるのに気づきました。ボテロは、この不意に生まれた造形の豊かさに芸術的な美を見出したのです。

ボテロの作品は、各地の美術館で世界中の人々を魅了し続けています。日本で26年ぶりとなる本展は、今年で90歳を迎えたボテロ本人監修のもと、初期から近年まで、世界初公開作品を含む油彩・水彩・素描70点を紹介いたします。ふくらみの中に託したボテロの魔法を、ぜひ目の当たりにしてください。

みどころ

モナ・リザの横顔、世界初公開

フェルナンド・ボテロが世界に注目されるきっかけとなったのは、1963年、ニューヨークのメトロポリタン美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》が展覧されたとき、ボテロの《12歳のモナ・リザ》がニューヨーク近代美術館(MoMA)のエントランス・ホールに展示されたことです。一夜にして、ボテロの名前はニューヨーク中に知れ渡りました。「モナ・リザ」はボテロが描き続けているテーマの一つで、本展では2020年制作の《モナ・リザの横顔》が世界初公開されます。90歳を迎えた今もなお、美術家として探求し続ける気迫の伝わる一枚です。

《モナ・リザの横顔》
フェルナンド・ボテロ
《モナ・リザの横顔》
2020年 油彩/カンヴァス 136 x 100 cm

国内では26年ぶりの大規模展

世界各国で空前のヒットとなっているフェルナンド・ボテロの展覧会ですが、本展は、1995-96年の巡回展以降、実に26年ぶりに日本国内で開催される大規模絵画展となります。ボテロ本人の監修により、初期から近年までの油彩ならびに水彩・素描作品など全70点で構成される本展は、展示作品のほとんどが日本初公開という注目のラインナップです。初めてボテロ作品に触れる方にも、ボテロファンにとっても、新たな発見のある展覧会となるでしょう。

《コロンビアの聖母》
フェルナンド・ボテロ
《コロンビアの聖母》
1992年 油彩/カンヴァス 230 x 192 cm
《象》
フェルナンド・ボテロ
《象》
2007年 油彩/カンヴァス 112 x 84 cm
《踊る人たち》
フェルナンド・ボテロ
《踊る人たち》
2019年 鉛筆、水彩/カンヴァス 133 x 100 cm

世界中で愛される、
ふくよかな作品

1951年のコロンビアに始まり、ヨーロッパ、北米、南米、アジアなど世界各地でこれまで70年以上にわたり数えきれないほどの個展が開かれてきました。観る人を惹きつけてやまないのは、ふくよかでユーモア、ときに風刺を交えた独特な作風、そして作品自体の大きさにも圧倒されます。豊かで、生の喜びをも感じさせるボテロ作品の数々を、ぜひ会場でお確かめください。

《楽器》
フェルナンド・ボテロ
《楽器》
1998年 油彩/カンヴァス 133 x 172 cm
《バーレッスン中のバレリーナ》
フェルナンド・ボテロ
《バーレッスン中のバレリーナ》
2001年 油彩/カンヴァス 164 x 116 cm
《赤の花》(3点組)
フェルナンド・ボテロ
《赤の花》(3点組)
2006年 油彩/カンヴァス 199 x 161 cm

なぜ、ふくよかな絵を
描き続けるのか?

ボテロのボリュームへの関心は、17歳の頃描いた作品《泣く女》(1949年)にすでに見出せます。その後、ヨーロッパ、特にイタリアで学んだ経験は、彼のボリューム感、官能性、デフォルメ表現に対する基盤を確固たるものにしました。ボテロは言います、「ボリュームを表現することで、芸術的な美を表現することを目指しているのです」、「私の作風は、私の作品の代名詞であるだけでなく、私が後世に残す遺産でもあるのです」と。

《泣く女》
フェルナンド・ボテロ
《泣く女》
1949年 水彩/紙 56 x 43 cm
パリのアトリエにて
パリのアトリエにて
※写真内の2作品は出展されません。

作品紹介

章 初期作品

ボテロは20歳であった1952年、コロンビア国内の展覧会で受賞した賞金でヨーロッパに渡り、そこで3 年間学びます。特にイタリアでは、クワトロチェント(1400年代)の名画、そしてバーナード・ベレンソンやロベルト・ロンギといった当時の偉大な理論家たちの著述との出会いを通じ、自らの絵画の理論的基盤を形成し、発展させました。
ボテロのボリュームへの関心は17歳の時の作品《泣く女》(1949年)にすでに見出せますが、イタリアでの修行はそれを自覚的で継続的なものとしたといえるでしょう。

《泣く女》
フェルナンド・ボテロ
《泣く女》
1949年 水彩/紙 56 x 43 cm
《バリェーカスの少年(ベラスケスにならって)》
フェルナンド・ボテロ
《バリェーカスの少年
(ベラスケスにならって)》
1959年 油彩/カンヴァス 132 x 141 cm

章 静物

1956年のある晩、ボテロはアトリエでマンドリンを描いていました。マンドリンの穴をとても小さく描くと、大きな輪郭と細部とのコントラストが生じ、楽器がふくらんで見えました。この時、彼は自分の仕事にとって、重要で決定的なことが起こったと感じたのです。
ボテロの様式は、かたちの官能性とボリュームの強調にあります。「ボリュームを通して、生命の高揚感が生み出されるが、デフォルメにより芸術には不均衡が生じる。それは再構築されなければならないが、一貫した様式によってのみ、デフォルメは自然となる」と、ボテロは言います。静物画はボテロが繰り返し描くテーマの一つですが、彼の様式は、これを通してこそ生まれて来るものといえるでしょう。

《楽器》
フェルナンド・ボテロ
《楽器》
1998年 油彩/カンヴァス 133 x 172 cm
《オレンジ》
フェルナンド・ボテロ
《オレンジ》
2008年 油彩/カンヴァス 148 x 206 cm
《黄色の花》(3点組)
フェルナンド・ボテロ
《黄色の花》(3点組)
2006年 油彩/カンヴァス 199 x 161 cm
《青の花》(3点組)
フェルナンド・ボテロ
《青の花》(3点組)
2006年 油彩/カンヴァス 199 x 161 cm
《赤の花》(3点組)
フェルナンド・ボテロ
《赤の花》(3点組)
2006年 油彩/カンヴァス 199 x 161 cm

章 信仰の世界

ボテロの全ての作品においては、青年時代の記憶が創作活動の主題となっています。
宗教的なテーマへの関心は、聖職者の世界とそこにあるかたち、色彩、衣装、そしてその造形的で詩的な側面を絵画的に探究するためのものであり、ボテロはユーモアと風刺をもって人物にアプローチしています。司教、修道女、司祭、枢機卿は1930年代から40年代のボテロの故郷メデジンでは突出した地位にあり、彼らを描くことで作品には、ある種の懐かしさとともに風刺とユーモアがあふれてくるのです。こうした作品は、ときに予想外で驚きに満ち、起こりそうもない世界を表現してもいます。

《コロンビアの聖母》
フェルナンド・ボテロ
《コロンビアの聖母》
1992年 油彩/カンヴァス 230 x 192 cm
《守護天使》
フェルナンド・ボテロ
《守護天使》
2015年 油彩/カンヴァス 130 x 101 cm

章 ラテンアメリカの世界

1956年、23歳のボテロはメキシコ芸術に出会いますが、このことは一つのターニングポイントとなります。自らのルーツや故郷コロンビアでの子ども時代の記憶にまなざしを向け、自作の中心的テーマとするようになったのです。同時にメキシコ芸術の大胆な色使いもボテロを触発し、彼の画面を色鮮やかなものへと変容させました。
近年ボテロは大型カンヴァスに水彩で彩色したドローイングを描くシリーズを制作していますが、そこでもラテンアメリカの世界は主題として生き生きと描写されています。

《バルコニーから落ちる女》
フェルナンド・ボテロ
《バルコニーから落ちる女》
1994年 パステル/紙 102 x 71 cm
《通り》
フェルナンド・ボテロ
《通り》
2000年 油彩/カンヴァス 205 x 128 cm
《バーレッスン中のバレリーナ》
フェルナンド・ボテロ
《バーレッスン中のバレリーナ》
2001年 油彩/カンヴァス 164 x 116 cm
《踊る人たち》
フェルナンド・ボテロ
《踊る人たち》
2002年 パステル/紙 142 x 118 cm
《踊る人たち》
フェルナンド・ボテロ
《踊る人たち》
2019年 鉛筆、水彩/カンヴァス 133 x 100 cm

章 サーカス

2006年、ボテロはメキシコ南部の都市シワタネホの訪問中、ラテンアメリカの趣のある質素なサーカスに出会いました。悲しみを内に秘めた人物だけではなく、何よりもその計り知れない詩的な味わいやかたちと色の造形性が、彼を驚かせました。この出会いは、ピカソ、マティス、ルノワールをはじめとする巨匠たちの作品によって高められた、サーカスという大きな可能性を秘めるテーマへと彼の想像力の扉を開きます。サーカスの役者たちは、盛んに動いているにもかかわらずボテロ作品の人物に典型的な静けさと美学をも湛え、ダイナミックさと静寂の間を揺れる逆説的な感覚を伝えています。

《象》
フェルナンド・ボテロ
《象》
2007年 油彩/カンヴァス 112 x 84 cm
《空中ブランコ乗り》
フェルナンド・ボテロ
《空中ブランコ乗り》
2007年 油彩/カンヴァス 178 x 100 cm

章 変容する名画

1952年に初めて欧州へ渡航して以来、ボテロは、ベラスケス、ピエロ・デラ・フランチェスカ、ヤン・ファン・エイク、アングルなど、美術史における主要な芸術家たちへ造形的なオマージュを数多く捧げてきました。過去の巨匠たちの名作を基にした一連の作品では、ボテロ独自の様式により他の芸術家たちの作品を全く異なるものへと変容させています。「芸術とは、同じことであっても、異なる方法で表す可能性である」というボテロの言葉を、強く思い起こさせるシリーズです。

《マリー=アントワネット(ヴィジェ・ルブランにならって)》
フェルナンド・ボテロ
《マリー=アントワネット
(ヴィジェ・ルブランにならって)》
2005年 油彩/カンヴァス 205 x 151 cm
《アルノルフィーニ夫妻(ファン・エイクにならって)》
フェルナンド・ボテロ
《アルノルフィーニ夫妻
(ファン・エイクにならって)》
2006年 油彩/カンヴァス 205 x 165 cm
《モナ・リザの横顔》
フェルナンド・ボテロ
《モナ・リザの横顔》
2020年 油彩/カンヴァス 136 x 100 cm