HIGHLIGHTS

みどころ1 ベル・エポックのパリから現代まで――
“みんな”に愛されるミュシャ

アール・ヌーヴォーを代表する芸術家アルフォンス・ミュシャ(1860-1939)。彼が紡ぎだした、「線の魔術」ともいえる華やかなポスターは、没後80年経った今なお、世界中の人たちを魅了し続けています。

本展は、ミュシャが手がけたポスターなどのグラフィック作品はもとより、彼の作品に強い影響を受けた日本の明治期の文芸誌、1960年代を中心にアメリカ西海岸やロンドンで一大ムーヴメントを巻き起こしたグラフィック・アート作品、そして、日本のマンガ家やグラフィック・アーティストの作品などおよそ250点を展示。作品を通じて、時代を超えて愛されるミュシャの秘密をひも解く、かつてない試みです。

  • アルフォンス・ミュシャ
    踏み台に乗って《カサン・フィス印刷所》(cat.76)
    の下絵を制作中のミュシャ(セルフポートレート)1896年©Mucha Trust 2020
  • アルフォンス・ミュシャ
    《ヒヤシンス姫》 1911年
    カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵©Mucha Trust 2020

みどころ2 ミュシャも日本が好きだった!?

本展には、ミュシャが20代の頃に描いた貴重なイラストや、本人がコレクションしていた書物・工芸品も数多く展示され、ポスター画家として一世を風靡するまでの足跡をたどることができます。なかでも注目は、鳥や花が描かれた日本の七宝焼の壺など、19世紀後半からヨーロッパで流行した日本趣味(ジャポニスム)の工芸品。ミュシャの孫、ジョン・ミュシャは「祖父はジャポニスムから大きな影響を受けており、《ジスモンダ》など縦長の作品の形状は、間違いなく日本美術の影響がある」と語ります。

ミュシャが初期に描いたカリカチュア(風刺画)には、飾北斎の《北斎漫画》などの影響を見てとることもでき、画家が様々な形で日本美術からインスピレーションを受けていたことがわかります。また、もう一つの注目が、ミュシャがわずか8歳で描いた《磔刑図》。キリストの表情の描写からは、のちの画家としての成功が予見できるようです。

  • 作者不詳
    《花鳥文七宝花瓶》
    19世紀後半 金属素地にエナメルで絵付け©Mucha Trust 2020
  • アルフォンス・ミュシャ
    《磔刑図》
    1868年 鉛筆、クレヨン、水彩・紙 ミュシャ財団蔵©Mucha Trust 2020

みどころ3 こんなところにもミュシャの影響が?

本展で異彩を放つ作品群の一つが、1960-70年代にアメリカやイギリスで発売されたレコード・ジャケットやロック・ポスター。この時代を代表するグラフィック・アーティストの一人、スタンレー・マウスは、ポスターの歴史を学ぶ中でミュシャと出会い、その後、「ミュシャの《ジョブ》の色を変えたポスターは、自分の作品の中でお気に入りの一つ」と述べています。実際そのポスターを見ると、確かにミュシャ作品の影響は顕著です。同じくグラフィック・アーティストであるデヴィッド・エドワード・バードも「ミュシャはポスターが“芸術”となった始まり」であり、「(グラフィック・アートなどを通じて)ミュシャは今も生き続けている」と語りました。この時代のアーティストたちにミュシャが及ぼした影響を、ぜひご覧ください。

  • スタンレー・マウス & アルトン・ケリー
    《ジム・クウェスキン・ジャグ・バンド コンサート
    (1966年10月7-8日 アヴァロン・ボールルーム)》
    1966年頃 オフセット・リトグラフArtwork by Stanley Mouse and Alton Kelly. © 1966, 1984, 1994. Rhino
    Entertainment Company. Used with permission. All rights reserved.
    www.familydog.com
  • アルフォンス・ミュシャ 1896年
    《ジョブ》
    カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵©Mucha Trust 2020

みどころ4 文芸誌のデザインからマンガまで――
日本で生き続ける“ミュシャ”

本展でミュシャ作品と並び「目玉」といえるのが、ミュシャに影響を受けた日本の文芸誌やマンガ、イラストの数々です。これらの選定には、本展監修者の佐藤智子(ミュシャ財団キュレーター)、本展アドバイザーの大塚英志(国際日本文化研究センター教授)があたりました。明治時代の歌人・与謝野晶子の歌集『みだれ髪』の表紙には、1896年にミュシャが描いたポスター《黄道十二宮》からの影響を見ることができます。この『みだれ髪』が発行されたのは1901年なので、ほぼ同時代にミュシャの作品が日本にも大きな影響を与えていたことがうかがえます。

さらに本展では、天野喜孝ら日本を代表するグラフィック・アーティストやマンガ家の作品を数多く展示します。ミュシャ作品との共通点を探しながら、是非新しい発見を!

  • アルフォンス・ミュシャ
    《黄道十二宮》
    1896年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵©Mucha Trust 2020
  • 表紙デザイン:藤島武二
    『みだれ髪』(与謝野晶子)
    東京新詩社と伊藤交友館により共同出版された
    与謝野晶子の第一歌集(明治34年)の復刻版
    (日本近代文学館1968年)
    ©Mucha Trust 2020
  • アルフォンス・ミュシャ
    《舞踏連作〈四芸術〉より》
    1898年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵©Mucha Trust 2020

[トップ作品画像]
アルフォンス・ミュシャ《舞踏―連作〈四芸術〉より》(部分)
1898年 カラーリトグラフ ミュシャ財団蔵 ©Mucha Trust 2019