介助犬になれなかった犬が“心のよりどころ”に “ココロの介助犬”活躍中
厳しい試験を合格した犬がなれる「介助犬」。訓練を受けても適性を認められず介助犬になれなかった犬たちが、新たな場所で活躍しているといいます。誰かの“心のよりどころ”となって人に寄り添う“ココロの介助犬”の姿を追いました。
障害者の日常生活をサポートする「介助犬」。
国が認定する介助犬になるには、難しい試験をクリアしなければなりません。衣服の脱衣補助、指示した物を持ってくるなど、さまざまな動作ができなければならないため、合格率は2~3割という狭き門なのです。
上手にケータイを持ってきたこちらの犬も、電車など乗り物に弱いため、介助犬の適性を認められませんでした。
しかし、そんな“認められなかった犬”が、いま注目されているんです。
日本で唯一の介助犬訓練施設「シンシアの丘」では、ふるさと納税やクラウドファンディングで支援を募り、認められなかった犬を別の場所で活躍できるよう、訓練を行っています。
ここ数年、“介助犬じゃなくても犬が役に立てる・犬を必要とされている人がたくさんいる”と実感しているようで…。
「介助犬になれなかった子を落ちこぼれと思ったことはない。いいところを生かせる場所を見つけてあげたい」(介助犬総合訓練センター シンシアの丘 水上言さん)
犯罪や虐待被害にあった人の治療も行う「楓の丘こどもと女性のクリニック」(愛知・大府市)。
この病院では、“キャリアチェンジ(転職)した犬”の「ハチ」(ラブラドールレトリバー・オス)が働いています。
ハチは患者を出迎え、診察に寄り添います。人と会うのが怖くて何か月も病院に入れなかった患者が、ハチと一緒なら受診できるようになったといいます。
「人間にはできないことをしてくれる。人間ばかりに囲まれていると絶対本音が言えない子が、ハチくんがいると、しゃべれる」(楓の丘こどもと女性のクリニック 新井康祥 院長)
介助犬になれなかった犬の活躍は、家庭でも。
愛知県西尾市に住む大生くん(中学3年)は発達障害があり、感情表現が苦手。弟の駿太郎くん(小学6年)は精神的に不安定なところがあり、不登校気味です。
兄弟を一人で育てているのは、看護師の母・和枝さん。兄弟だけにすると危険なため、夜勤や休日出勤をやめた上、仕事以外で家から出られない状況が続いていました。
「ギリギリでしたね。追い詰められてて」(母・和枝さん)
わらをもつかむ思いで申し込み、やってきたのが「オズ」です。オズはマイペースな性格で引っぱる力も強いため、介助犬になれませんでした。しかし、ものおじせず、大きな音も怖がらないため、興奮する子どものいる家でもやっていけると判断されたのです。
オズが来て一年。無表情だった大生くんが、オズに対しては優しい顔を見せるように。パニックになることもなくなってきたといいます。
大生くんは、オズを“心のよりどころ”としているそうです。
「前は、かんしゃくを起こすと前後の記憶もなくなったり、それが自分でも怖かったっていうのがあるんですけど。オズが来てから、記憶がなくなるっていうことがなくなって、全体的に落ち着けるようになってきたっていうのが大きいですね」(大生くん)
「オズが来てから、そんなに(兄弟)けんかしなくなった。(自分も兄も)二人とも優しくなった」(弟 駿太郎くん)
これまで一触即発だった兄弟でしたが、オズを介して上手にコミュニケーションを取れるように。母の和枝さんも、いまでは子どもを家において散歩に出かけ、海辺で本を読む時間を作れるようになったといいます。
「自分一人で抱え込まなくていいんだと思えた。オズは別に何か答えをくれるわけでもないんですけど、子どもたちにとっては守るべき弟みたいな存在でもあり、逆にオズが子どもたちを見守ってくれる存在。“私にとっては本当に救世主”ですね」(母 和枝さん)
介助犬になれなかったオズが一家の救世主に。今では、家族の一員として活躍しています。