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“かつての名門”から世界へ―― ボクシング・矢吹正道(28)の挑戦

報道局・スポーツ
スポーツ 特集 愛知 2020/08/10 10:00

 世界チャンピオンを目指すプロボクサー、矢吹正道(28)。軽量級とは思えないパンチ力を武器に、戦績はプロ通算13戦10勝10KO。勝利したすべての試合で相手をマットに沈めてきた。

 かつての名門ジムから、約20年ぶりのチャンピオンを目指す男の挑戦を追った。

 


 矢吹が所属する「緑ボクシングジム」(名古屋市緑区)は、かつての名門だ。飯田覚士、戸高秀樹という人気と実力を兼ねそろえた世界チャンピオンを輩出してきた。

 その二人を育てたのが、会長の松尾敏郎だ。

「この頃はよかったですよ。飯田が世界に挑戦してから24年ですよ。ある意味、自分も燃え尽きたところがあったのかな」(緑ボクシングジム 松尾敏郎 会長)

 約20年間、緑ジムからチャンピオンは生まれておらず、矢吹はジムの期待を一身に背負っている。

「どっちみち長くない。1回死にかかった人間だから、自分の全財産をかけてやろうと思っている。そういう気持ちになれるだけ幸せだなと思っている」(緑ボクシングジム 松尾会長)

 

 矢吹が挑戦する「日本タイトルマッチ」は、新型コロナウイルスの影響で3度延期に。ようやく7月末に試合が行われることになっていた。

 日本タイトルマッチまで2週間。この日は家族も一緒にトレーニングに汗を流す。矢吹は週に2日、家族とジムで時間を過ごしている。子どもたちは父親に憧れ、気がつけばボクシングを始めていたという。

「ボクシングに関しては、結構、厳しく言いますね。ボクシングは危ないスポーツですし、やるなら、しっかりやらないとケガするんで」(矢吹正道)

 日々の厳しい練習に体調管理と、プロボクサーの夫を支える妻・恭子さんは…。

「10代からずっと一緒にいるんですけど、ボクシングがあって当たり前って感じなんで、あんまり大変と感じたことはないですね。殴られるって事は、心配は心配ですね」(妻 恭子さん)

 ボクシングだけでは生活できない。夫婦で建設現場などで働き、収入を得ている。

 

 つかの間の休息。家族の存在は、矢吹の大きな支えとなっている。

「負ける所は見せたくないです。自分が負けて泣かれたりするのは嫌です」(矢吹)

 矢吹は三重県鈴鹿市生まれ。ボクサーだった父親の影響で、6歳の頃、ボクシングを始めた。

 4年前にプロデビューし、リングネーム「矢吹」は、ボクシング漫画の主人公にあやかった。KO勝ちを重ね、「世界王者」への通過点、「日本タイトルマッチ」に挑むことになった。

 

 その相手は、東京の大手ボクシングジムに所属する若手のホープ。9連勝中と波に乗る、日本ライトフライ級2位の佐藤剛。矢吹より若い、パンチ力に定評があるサウスポーだ。

「今まで通り自分らしく、しつこく攻撃することが重要。自分の能力を出せれば勝てると思っている」(佐藤剛)

 

 「日本タイトルマッチ」まで1週間。最後のスパーリングが行われた。強打の佐藤剛を仮想して、矢吹は4階級上の選手を相手にする。

 最後は階級差を感じさせないパンチで、相手をマットに沈めた。調整は万全。

「周りの支えは感じますね。応援してくれる人とか、家族とか。一人だったら家事も全部しないといけないけど、あまりせずにボクシングやれてるので。勝って恩返しって感じですね」(矢吹)

 

 7月26日。「日本タイトルマッチ」当日。運命の一戦が始まった。

 序盤、前に出てくる相手に対し、距離を取りつつ、攻撃の機会を探る。残り1分半すぎ、矢吹が仕掛け、右ストレートがヒット。さらに左フックでダウンを奪う。

試合は完全に矢吹のペース。冷静に相手を追い詰めていく。

1ラウンド残り30秒。矢吹最大の武器、右ストレートが相手の顔面にクリーンヒット。相手がぐらついたのを見逃さず、猛ラッシュをかけると、相手が膝から崩れ落ちた。

エイトカウントを過ぎたところで勝利を確信した矢吹。応援席側の赤コーナーに駆け上がった。

 1ラウンド、2分55秒。KOで勝負を決めた。日本ライトフライ級新チャンピオン、矢吹正道の誕生だ。

 

「とりあえず安心しました」(矢吹)
「ずっと胸が緊張してドキドキしたんですけど、胸のつかえが取れました」(妻 恭子さん)

 家族、ジム…周囲からの期待を背負っての、日本タイトル獲得。世界への挑戦の扉が、いま開かれた。

「最初はホッとしたんですけど、徐々に喜びがきました。きょうは寝られないですね。次の目標は、東洋タイトルか、世界タイトルです」(矢吹)

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