「お父さんの顔を忘れないで」家族と離れ、感染者を搬送する民間ドライバー 使命感と我慢の葛藤
“医療崩壊”が叫ばれ、実際に救急車の搬送困難も相次ぐなか、民間の介護タクシーのドライバーが立ち上がりました。
家族と離れ、新型コロナ感染者の搬送に汗を流す日々。その決意の理由とは――
愛知県瀬戸市に住む迫田塁さん(43)。
仕事に向かう迫田さんは、新品の防護服に着替え、医療用のマスクを取り付けました。
迫田さんの仕事は、新型コロナ感染者の移動を担う、搬送ドライバーです。
搬送用の車内はビニールで区切られ、後部座席には大きなストレッチャーが。
本来は、介助が必要な人の移動に使われる、介護タクシーの車両です。
介護タクシーのドライバーである迫田さんの元に、コロナ患者搬送の話が来たのは、12月上旬のことでした。
「『名古屋市からコロナ感染者の搬送依頼入ってきたけど、やるか』みたいな感じで。やろうやろうと。救急車でコロナ感染者の搬送をしているから、本当に必要な人が(救急車で)行けない。だから僕たちが用意されたと」(迫田さん)
25歳のとき、事故に遭い、周りの助けのありがたさを知ったという迫田さん。自分が助けられた分、今度は誰かの助けになりたい――。
元々の利用者には、事情を話して別の介護タクシーを利用してもらい、搬送の役割を引き受けることにしました。
「患者本人には言われたことないけど、病院の看護師やスタッフの方に「ご苦労さまです」、「ありがとうございます」って言われたときですかね。そこが一番…、「どういたしまして」って感じです」(迫田さん)
使命感とやりがい。その一方で、我慢していることもあります。
実は、家族とは現在、離れて暮らしています。
「「やるなら家を出るのが条件」と嫁さんに言われて、(家族に)うつさないのが一番の理由ですけど、「パパ、コロナ感染者の搬送をやっているから」となると、(息子が)かわいそうだから」(迫田さん)
長男はこの春小学生になりますが、このままの暮らしが続けば入学式への参加も諦めなければなりません。
「会いたいなと思う?」(記者)
「そりゃそうですよ。子どものほっぺたにかみつきたいですね」(迫田さん)
悩ましい、風評被害の問題。
実際、名古屋市で参加の意思を示していた介護タクシー事業者の一部には、風評被害を懸念して、参加をとりやめたところもあります。
「最初は(搬送業務の)特別班に十数名の事業者が手をあげたが、本物の陽性者を運ぶとなったら、家族に相談するとか、屋号が出るだけで普段の仕事がなくなってしまうのではと」(福祉・介護移送ネットワークACT 鎌倉安男 代表理事)
さらに、実際に搬送を始めると、ほかにも課題があることがわかりました。
名古屋市からの電話では、こんなやりとりが――
「車両はハイメディックタイプになります。救急車タイプになりますけど」(福祉・介護移送ネットワークACT 串原諒さん)
いま搬送を頼むと、どんな車両になるか、という確認でした。
「お迎えに行ったとき、ハイメディックタイプ(救急車タイプ)で行くと、周りからの目線が気になる方が結構いらっしゃって、ハイエースというような目立たない車両で来てもらいたいという(依頼)はありますね」(福祉・介護移送ネットワークACT 串原さん)
搬送する側だけでなく、搬送される側も周囲の目を気にしなければいけない現状がありました。
「患者さんを迎えに行って、(車に乗せるときに)カシャカシャ撮られたので、患者さんに申し訳ないなと思いながら、やめてくれと言うのもできなかったので、それが一番嫌でしたね」(迫田さん)
周囲からの視線に悩みながらも、感染者を搬送し続ける、迫田さん。しかし息子の存在が、仕事への使命感を後押ししてくれます。
「父ちゃんの顔忘れたらいかんぞ!」(迫田さん)
「とうちゃんコロナにかからないでね。しごとがんばってね」(長男)