プロジェクトストーリー

中京テレビだからできること、
伝えるべきこと
ススメプロジェクト

自分たちにしかできない活動がある。そんな考えから、長年にわたって社会貢献活動に力を入れてきた。その活動をすべて見直し、もう一歩前進させようと、まっさらな状態から2018年10月に立ち上がったのが「ススメ」プロジェクトだった。奇しくも見直しと同時期に、中京テレビの人気アナウンサー恩田が乳がんに罹患。社会貢献活動を担当する部署にいた安部は、新たなテーマとして「乳がん」を提案しプロジェクトを立ち上げる。二人を中心に手探りで進めてきたプロジェクトの経緯とその想いを語り合った。

TALK MEMBERTALK MEMBERTALK MEMBER

TALK MEMBER

安部 まみこ

経営企画局
1995年入社

恩田 千佐子

アナウンス部
1990年入社

伝えたい!
伝えていかなければ!
その想いの強さが
会社を動かした。

安部

偶然のタイミングでしたが、必然でもあったのかもしれません。恩田アナの乳がん罹患という事実と向き合い、乳がんの情報が思った以上に一般に浸透していないと気づいた時、乳がんについての正しい知識を伝えることが、社会貢献につながるのではないかとの思いが浮かびました。すぐに企画を練るのと並行して、治療で会社を休んでいた恩田アナに参加の意思を確認。経営会議で提案しましたが、通すのは簡単ではありませんでした。「すでにピンクリボン活動がある中、中京テレビでやる意味は?独自性は?」「恩田アナありきなのでは?」「女性だけの問題を取り上げる理由は?」。役員から数々の質問が飛んできました。乳がんの罹患が増える年齢と中京テレビの視聴者層が重なることなど、中京テレビが取り組む意義を必死に訴えました。

恩田

その間、私は治療や番組放送に集中していました。2017年11月に右乳房全摘出、右腋リンパ節全摘出手術を受け、その後の抗がん剤治療も含めて「キャッチ!」で密着取材をしたドキュメンタリーを放送しました。患者である私のリアルな姿を通して、乳がんがどういうものなのかが伝わり、早期発見・早期治療のために検診に行く人が増えればいいなと思っていました。女性だけではなく家族にも伝えたかった。視聴者からの反響は正に想像以上で、SNSやメール、お手紙などで本当にたくさんのメッセージをいただきました。乳がんは圧倒的に女性に多いがんですが、例えば母親が乳がんになると家族みんなの生活が変わる。入院・手術・治療を家族がどう受け止めて支えるのか…?女性だけの問題ではないのです。実際に私の娘や息子も大変な思いをしていました。

安部

そうですよね。どうしても罹患した本人だけにフォーカスされがちですが、影響は本人だけじゃない。男性にも子どもにも周囲の多くの人に関係するという事実は、プロジェクトがメッセージを発信する上で重要な視点になっています。

テレビが持つ世代を超えた
強い発信力を活かし、
ドキュメンタリー、イベント、
書籍など多角的に展開。

恩田

ススメの特徴として、今のデザインにしたのが本当によかったと思います。

安部

そうですね。ススメの文字のロゴを決めた時に、最初に出てきた胸の形に似た雰囲気の候補を見て、恩田さんが「患者の立場から見ると、これは避けたい」とはっきりと意見を言ってくれましたよね。私たちは全然気づけなかったので、当事者の意見は貴重でした。

恩田

そして、もう一つのススメのシンボルである、セルフチェックの動きを表しているチェックマークがおしゃれ!何も知らずに見ても、普通にかわいいですよね。プロジェクトでは、そのチェックマークをモチーフにまったく新しい透明の乳房模型を作りました。従来の模型はリアリティがあるがゆえに触ることに抵抗を感じるという意見があり、男性でも子どもでも触りやすいことを意識しました。中京テレビまつりなどのイベントで、その模型を使ってセルフチェックのやり方が学べるコーナーをつくったら、狙いどおり老若男女多くの方に触ってもらえました!

安部

おまつりに遊びに来たついでに、セルフチェックのやり方を学ぶ。そしてススメで検診車を手配して無料検診を行ったら、驚きながらその場で申し込んでくださった方も多かったです。普段関心のない人に伝えるには、この「ついで」がポイントですね。

恩田

そうですね。テレビは日常生活の中にあるものです。そんな放送を見ている時に“ついで”に、子育て世代の女性に増えるがんなので毎日忙しいからこそ意識してほしい、セルフチェックや検診は大切ですよと伝えることは、テレビだからできることだと思います。テレビを見ながらの会話の中で、夫や子どもが「そういえばママって検診に行ってるの?」と声をかけて欲しいと思っています。

安部

さらに多くの人に伝えようと、恩田アナの乳がん治療に関するインタビューや専門医の解説、身近な人たちの思いなどをまとめたススメの書籍も2020年に出版しました。立ち上げ当初は本まで書けるとは思っていませんでしたが、活動を続ける中で伝えきれないこと、説明しきれないことが噴出し、テレビ以外でも伝える方法はないかと考えた結果「本を出そう!」と実行に移しました。2021年は、オンラインで開催した子育てイベントでお風呂に浮かべられる絵本をつくって恩田さんに読み聞かせをしてもらいました。年間でどういう活動をするか、大まかな枠組みはあらかじめ計画しますが、細かいことは走りながら考える(笑)。製作物一つひとつの具体的な内容は、活動の中で気づいたこと、やる意味があると思ったことを反映。迷った時は、「乳がんで悲しむ人を一人でも減らしたい」「医療機関ではないテレビ局だからできること」という原点に立ち返って考えています。

恩田

私はプロジェクトに関わって自分の経験などを伝えることが、自分自身への励ましにもなりました。夕方の帯番組を担当しているので、どうしてもプロジェクトの活動に時間をかけるのが難しいところがありますが、そこはリーダーである安部さんが私の意見を尊重しながら様々なことを進めてくれて助かりました。

安部

恩田さんにしかできないことがありますし、私が得意だったりやれることもあります。恩田さんと私の組み合わせでタイミングがたまたま重なったことで「ススメ」が立ち上がり、社内外の多くの方の協力を得られているから育っていると実感しています。

反響の広がりは想像以上。
中京テレビだから
できることは、
まだまだある。

恩田

このプロジェクトは、中京テレビが発信するだけではない展開を見せているのが自分たちでも驚きですね。

安部

そうですね。セルフチェックの方法を詳しく紹介する動画を製作して無料で提供していますが、多くの自治体や医療機関の検診会場で流されたり、プロジェクトの医療監修をお願いしている教授が、医学生の講義で使ってくださっています。動画は英語版もあり、海外から提供してほしいと電話がかかってきたこともありました。動画だけではなく、他の製作物もイベントの啓発活動で使用されたり、製薬会社の研修で恩田アナのドキュメンタリー映像や書籍を活用いただきました。そんな活動全体や、デザインなどが評価されて、全日本広告協会主催の全広連鈴木三郎助地域クリエイティブ大賞・最優秀賞や、グッドデザイン賞など数々の賞をいただき、認知も上がってきています。現在は中京テレビのSDGsの一環との位置づけになりました。

恩田

他の組織で使っていただいているのはすごいと思います。もちろんプロジェクトをきっかけにセルフチェックをしたり、検診に行ったという声もいただくし、中には放送を見て検診に行って乳がんが見つかったという方もいて、早期発見の役に立てたのでは…と実感できました。私がこのようなプロジェクトに関われたのは、中京テレビという会社の社風によるところも大きいと思います。自分の意見を言いやすい雰囲気があり、社員も自分の考えをきっちり主張して引き下がらない人が多い(笑)。「やってみよう!」と思える雰囲気がありますね。私も今後は、今まで通り早期発見・早期治療につながる活動はもちろん、私自身が経験してきた、治療と仕事を両立させる「がん就労」についても発信していきたいです。また、コロナが落ち着いてきたら、講演やトークショーも再開し、乳がん治療をしている患者さんと悩みを共有できたら…と思っています。

安部

プロジェクトリーダーは20代の女性に引き継ぎましたが、引き続きメンバーとして学校教育の場での「がん教育」にも新たに取り組んでいきたいです。「ススメ」プロジェクトとして、中京テレビの表現力と制作力を生かして、貢献できることはないか、探っていきたいです。色々な偶然が重なって「ススメ」プロジェクトが生まれましたが、「中京テレビ×あなた×その時=新しい何か」という、中京テレビだから、あなただから、その時だから生まれるものが積み重なって、新しいものができ、それが会社の発展に繋がって歴史になっていけばいいですね。それができる環境を作ることが、先輩である私たちの役目だと思っています。