いざW杯へ・楢崎、代表決定
―精進を重ねた4年を経て「今回はピッチに立つ!」―
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日本中が息を呑んでその時を待ったその時。5月17日午後3時30分。 ワールドカップ日本代表最終メンバーが発表された。ベテラン秋田、中山の 復帰、中村俊輔の落選などが話題を集めたが、楢崎は”順当に”2大会連続の 代表入りを決めた。
その時、楢崎はグランパスのクラブハウスにいた。長い欧州遠征の疲労を取り リフレッシュを図ろうとマッサージを受けていたのだ。代表メンバーが発表される 時間すらも知らなかった。トレーナーに教えられてテレビのスイッチを入れたという。 「常に自分のできる最大限のことをやっていくだけ」という口癖通りの迎え方だった。
午後6時、クラブハウス内の会議室内に用意された記者会見場にTシャツとトレーニングパンツ姿で現れた楢崎は、いつものように淡々と、しかし最大限に思いを込めた言葉で、代表に選ばれた思いと本大会への決意を語った。
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思わず笑顔。しかし決意ものぞかせた
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―今の心境は
「ようやく正式に決まってほっとしているのとうれしいのと入り混じった気持ち。
地元開催の大きな国際大会なので、個人としてもチームとしてもいい成績を残せるように、まとまって、チーム一丸で闘えるように、しっかり準備して本大会に臨みたい。」
―選ばれて当然という気持ちだったのでは
「代表を長く外されている時期もあったので、入って当然という気持ちは全くなかった。ただ、これまでやってきたことについては自分の自信にもなっていたという気持ちはあったので、その結果として代表に選ばれたというのは嬉しい。本当に”素直に嬉しい”という心境です」
―本番に向かってやってやるという気持ちになったか
「いよいよこれからだという気持ちと選ばれた嬉しさと半分ずつというところ。
合宿がはじまればいよいよだ、という気持ちがもっと湧くでしょう。」
―前回(フランス大会)はメンバーに選ばれたが出場はなかった。今回は試合に出る可能性が高い
「自分の中では(GKの中で)誰が出るのかは分からない。自分が出られるようにコンディションを上げて 体調を整えていくだけ。後はトルシエ監督が決めること。」
―自国開催のワールドカップの代表になれたことについては
「自分のサッカー人生の中で、自国開催のワールドカップの代表になることは2度とはないことだと思う。 選手として参加できることは光栄です」
―どういうプレーをしたいか
「ピッチに立ってプレーする事が目標ではあるが、立てるかどうか、ということはわからないし、特別どうしたいか、と聞かれてもピンとこないんですが、やっぱり、いつも通りプレーする、ということに変わりないですね」
―やっぱりピッチに立てば緊張するのでは
「今、この会見の方が緊張しますよ。(笑)意外と普段の国際試合と変わらないかも知れない。でもワールドカップですからね。相当気合を入れていこうとは思います。」
―チームとして、どんな闘いになるか
「日本が今まで、トルシエ監督になってから4年間積み重ねたものを出せばいいんだ、と思ってます。 みんな自信をもってやってるし、不安という気持ちにはなっていない。
なるべく皆さんの期待にそえるような展開、結果になるようにしたい、とは思いますけど」
―名古屋のファンに対しての思いは
「最近のリーグでの試合では、サポーターは代表を意識した応援をしてくれていて、すごく感謝しています。ワールドカップのピッチに立つことで恩返しできたらいいな、とは思っています。
これからの最終合宿、そして本番の試合の中でも、名古屋を代表して闘っている、という気持ちは忘れないよう心がけたいです。」
―4年前と世界との差は縮まったという感覚は
「日本のレベルは着実にアップしているとは思います。ただ、本当の真剣勝負の場での比較はやっぱりワールドカップの中でするものだと思う。これまでもいろいろな国際試合はやってきているけど、4年前と比べてどうか、といのうのはワールドカップをやってみて出るものだと考えている。チームは間違いなく4年前よりは自信を持ってやっているし、後はワールドカップの結果で出るでしょう。」
―前回大会にも出場した経験をどう生かすか
「(経験は)出していきたいとは思っているけど、本番までの持って行き方は、監督が違えば違うものだし、全部同じになることはない。前の経験を生かしながら、新しいものを取り入れていくということになっていくんでしょう。そう気にするものでもないです。今のメンバーはそれぞれ能力を持っているのだから、特別誰かに自分の経験を伝えながら、ということも意識していない」
―この4年間で成長したと思える部分、成長につながった出来事は
「今も自分のことたいしたことないと思っているんで、こういう経験をしたからすごい、とか成長した、とか感じることはないです。自分としては、やってきた全てのことが今につながっていると思っている。自分がどれだけ成長したかとか、どれだけうまくなったか、というのはわかりにくいものですし、個人としてもそういうことを口にしたくないものです。いままで失敗もしたし、うまくいったこともあるし、そうしたことすべてをプラスに考えてやってきた。すべてが自分の実になっていると思っています」
―グランパスのチームメイトから祝福は
「発表があってからは特に電話とかはきてないですけど、発表前には何本か電話がありましたね。『もう決まってんのやろ、お前は』みたいなのは(笑)。マッサージを受けている最中だったんで、そこにいたスタッフはみんな喜んでくれましたよ。自分もうれしい顔はしていたんでしょうけど、そういうところは見られたくないんで、派手には喜ばなかったと思います。素直に嬉しいとは思いましたけど」
―トルシエに自分のどこが評価してもらえたと思うか
「具体的には、全くわかりません。プレーも、それ以外のところも、合宿とかで一緒に過ごしてきて、トータルで選んでもらっていると思っている。試合でどれだけアピールできたかについては、自分ではわかりません。」
―チームの中でどういう役割を担っていきたいか
「ゴールキーパーですから、ゴールキーパーとしての役割をします」
―グループリーグの相手の中で、特に対戦への強い意識を持つチームは
「どことの試合に特別出たい、というものはないんですが、チームとして初戦(ベルギー戦)は大切にしたい。初戦の結果から次への想定が出てくるところが大きいですから」
―対戦国の研究は正式に代表に選ばれたことでさらに進むのか
「今までも、特に気合を入れてビデオを見たりしているわけじゃないですけど。スカウティング担当のスタッフを信頼していますので、その方の用意してくれる資料を、これから集中して見ていきます」
―自身の気持ちとしては、今回こそピッチに立ちたい、というものは強いのでは
「もちろんです。試合には出たいです」
最後の質問に答えるときに、その目の輝きはひときわ鋭いものになっていた。やはり世界最高の舞台に対する思いは並々ならぬものがあった。日本の誇り、そして自分の誇りを賭けた闘い。その火蓋が切られるときは、もう間もなくだ。
取材:大藤晋司
[2002.5.18]
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