進化をもたらした新”皇帝”
―ヴァスティッチ効果で3連勝―

 日本中がW杯の熱狂の渦に包まれていた6月。Jの各チームはW杯明けのリーグ再開にむけて準備を進めていた。再開から5試合、その準備の成果が素直に現れている。別のチームのように勢いをつけたチームもあれば、その逆のチームもある。そんな中で、グランパスはこの中断期間を経て、課題であった”変革への生みの苦しみ”を乗り越えることに成功しつつある。好調のガンバにこそ延長で屈したが、市原、広島、神戸、そして鹿島に勝ち、現在3連勝中。特に神戸、鹿島戦は安定感のある守備と流れるような攻撃がミックスされた内容のあるサッカーを披露した。ベルデニックイズムがようやく浸透した、W杯で自信を深めた楢崎の存在が大きい、など様々な要因が語られているが、ひときわ目立つのが新戦力の効果だ。

 6月初旬、2人の外国籍選手が加わった。オーストリア出身のFWヴァスティッチとクロアチア出身のDFパナディッチ。世界的なビッグネームではない。入団当初、どちらかといえば。地味な存在と映った。しかし、W杯期間中の飛騨古川キャンプなどでじっくりチームに溶け込んでいく中で、その存在感は確固たるものになり、再開後の5試合では完全にチームの中心になっている。

パナディッチの1対1の強さも守備の安定に貢献をしているが、なんといってもチームの要トなっているのはヴァスティッチ。その存在は、潜在能力は高かったがそれを十分に発揮できずにもがいていたチームを劇的なまでに変えた。

爆発的な攻撃力を演出する新司令塔

 登録はFWだがトップ下も、サイドハーフもできる万能型の選手。オーストリアリーグで得点王3回、98年フランスW杯でも1得点を記録している得点能力もさることながら、特筆すべきはオフ・ザ・ボール、すなわちボールのないところでのポジショニングのよさと、”先の先”までボールの動きを読む洞察力の高いプレーだ。

 気がつけばスペースにフリーで待っている。プレッシャーが少ないからボールをもらえば余裕をもってプレーできる。余裕があるからいろんなアイデアを発揮できる。自然とヴァスティッチを経由した攻めは敵のディフェンスの急所をついていく。彼からのパスを受ける選手は伸び伸びと相手ゴールに襲いかかっていく。守備をこじ開けようときゅうきゅうとしていた中断前の余裕のなさは消え、その精神的な余裕が精度の高いプレーを引き出していく。ヴァスティッチ一人の存在で、ボールの流れという、人体に例えるなら血流がスムーズになり、チームとしての動きに躍動感が飛躍的に増した。

「イヴォがあそこに(ボールを)出してくれると思った」
「イヴォがあそこにいるはずだからパスを出した」

試合後の選手達のコメントにこんな言葉が増えた。イヴォはヴァスティッチの愛称。チーム内での彼への信頼感は絶大だ。特にゴール前でボールを受けさえすれば絶対的な決定力をみせるウェズレイとのコンビは抜群。ホットラインとしては現在リーグNo.1といってもいい破壊力を示している。

「私の目指すサッカーを実現するには時間がかかる。少し長い目で見て欲しい。」
就任当初からこう言い続けてきたベルデニック監督にとって、《その時がやってきた》と思える手応えをしっかりと掴んでいる。ファーストステージはあと3試合。さらにサッカーの型をこの3試合の間に固めれば、間違いなくセカンドステージは優勝戦線にからんでくるだろう。

 グランパスにはストイコビッチという”皇帝”が長く君臨し、この絶対的な選手を中心にチームが動いていくという歴史があった。ストイコビッチが引退してからは、このスタイルから脱皮することを目指したが、長く刻まれたチームスタイルを転換することに苦しみ、模索が続いた。今、ヴァスティッチという、新たな”皇帝”が戴冠することによって、グランパスは輝きを取り戻そうとしている。ストイコビッチとはやや存在感は異なるが、待望久しかったチームの”核”が加わり、グランパスは大きな飛躍の時を迎えている。

取材:大藤晋司

[2002.8.6]
→バックナンバー

名古屋グランパス公式ホームページはこちら!




スポスタトップページにもどる