優勝への試練・つきつけられた大きな課題
―無得点の連敗が示したもの―
|
引き分けをはさんで8連勝。3節終了時にはついに首位に立ったグランパスにとって、その直後のヴィッセル戦は「誤算」「まさかの敗戦」といわれた。そして豊田スタジアムに舞台を移してのガンバ戦。目下優勝争いのライバルとの対戦だけに、その誤算の敗北をいかに払拭するか、ということが試合前の大きなテーマだった。ただこの試合は出場停止だったヴァスティッチが復帰、ウェズレイとの”J最強コンビ”が4試合振りに復活することになるだけに、それほど神戸の悪夢は引きずらずに好試合を展開できるだろう、というのが大方の予想であった。
|
結果は0−1での敗戦。ウェズレイ、ヴァスティッチがそろって出場した試合では初の無得点試合になってしまった。これまで他チームを圧倒する攻撃力を前面に押し出して勝ち進んできただけに、神戸戦と合わせ180分間ノーゴールというこの事態を”急ブレーキ”と感じる方もいるかも知れない。確かにこれまでは試合内容全体としてはいいとは言えない試合であっても、その中で相手ゴールをこじ開けることは確実にやってきただけに、不思議とともに不安が広がることは想像に難くない。
しかし、結果論といわれてしまうかもしれないが、この事態に至る必然の芽は、過去の数試合の中で見られていたように思う。それがガンバという、現在非常にクオリティの高いサッカーを展開するチームとの”ガチンコ勝負”の中でまともに出てしまったという気がする。
|

2門の大砲への”導火線”、それが課題だ
|
ともに3−5−2のシステム、中盤が厚くFWに決定力があるという、”似たもの同士”のチームであるグランパスとガンバ。結果は0−1だが、記者席から見る限り内容的にはガンバの「順当勝ち」ともいえるものだった。ガンバの中盤のパスは少ないタッチ数で実にスムースに回る。選手のオフザボールの動きが計算されたもので相手のマークをことごとくはずした状態でボールをもらうから次のプレーに余裕をもって臨めるのだ。そしてこれが決定的だったのだが、ガンバのサイドアタッカー、右の橋本(途中から森岡)、左の新井場の攻撃力とFWへのつなぎのプレーがグランパスを圧倒していた。得点シーンも新井場が深いところで海本を置き去りにしてフリーでクロスを放ったことから生まれたが、それだけでなく90分を通してガンバのサイドの攻めはグランパスに脅威を与え続けた。中盤を支配され、さらにこれだけサイドも攻められれば、自分達の攻めの時間は当然短くなる。ボールを持っていた時間でそれほど差がなかったとしても、得点をとれそうな”形”を持った状態のボールキープという点ではガンバが終始上回っていた。
マグロンとウェズレイという得点王を争う二人の直接対決が注目されたが、マグロンは1点は挙げたが終盤はボランチの位置まで下がって守備に追われるなど、全体としてはそれほど目立たなかった。「右足の魔術師」マルセリーニョと「新”皇帝”」ヴァスティッチの対決も、どちらに軍配とはっきりいえるような差はなく、互角の闘いだった。しかし、圧倒的な存在感をもつ二人へボールを供給する「つなぎ」のプレーではガンバの勝ちだった。たしかに張り替えたばかりの芝に足をとられたり、ボールコントロールに影響があったのは事実だ。しかし相手も条件は同じ。それを打開できるだけのものをこの日のガンバは見せた。
特にグランパスがこれまでも懸念材料としながらも有効な策を見出せなかった「サイドからの攻め」の弱点がこの日は端的に露呈した。ベルデニック監督も指をくわえて見ていたわけではない。この日は右に海本、左に平岡直起を先発起用し打開を図ったが、ガンバの「本職」サイドアタッカーを止められなかったし、敗れなかった。後半途中で右に山口慶、左に滝澤というコンビに同時に交代したが、それでも状況は変えられなかった。サイドが有効に攻撃に絡めないとトップへのボールはどうしても直線的になり、相手のDF陣にとっては読みやすい展開になる。同じ面積のピッチで闘っている以上、広く使えるチームのほうが攻めの種類は豊富になり、狭くしか使えないチームは単調になりやすい。その違いが見えてしまった。これは決して”急ブレーキ”ではなく、これまでも課題として残りながら勝利の陰で目立たなかったことだった。ガンバのような、非常にいいサッカーができているチームを前にして、その課題がはっきりと見えてしまった、というのが現実だ。
「これまでだってサイドからではない攻めで点はとってきた。点をとるのが私の仕事。ゼロということは私の責任だ」(ウェズレイ)
「相手に研究されたとは思わない。点がとれる、とれないの差はちょっとしたことさ」(ヴァスティッチ)。
二人は試合後、今までの中での課題については言及しなかった。しかしその表情には悔しさがにじんでいた。
当面のライバル、ジュビロ、アントラーズは相手の急所をつくことに長けたチーム。はっきりと見えた課題を、闘いながらどう修正していくのか。悲願の初優勝へ向け、越えねばならない高い壁がたちはだかってしまった。
取材:大藤晋司
[2002.9.22]
|