声なき声に、耳をすませる。「なくしたい、性暴力」中京テレビ報道局声なき声に、耳をすませる。「なくしたい、性暴力」中京テレビ報道局

女性に対する暴力の被害者に寄り添う女性弁護士の覚悟 辛かった被害を“なかったことには、させない”

2020年10月14日

声を上げることが難しい、性的な暴力の被害者達に寄り添う、女性弁護士がいます。究極のプライバシーに関わるやりとりがなされる、その弁護の現場。被害者たちが再び歩みだすために力を尽くす、女性弁護士の覚悟に迫ります。

被害者たちの声「信じてほしい」


名古屋・栄 フラワーデモ

今年10月。集まった人々の手には、花と、「性暴力を許さない」と書かれたカードが。新型コロナウイルスの影響で約半年ぶりとなった、名古屋・栄での“フラワーデモ”。性暴力の被害者やその支援者が、社会に声を上げる場です。

この日、参加者の怒りはある女性議員に向けられていました。

□参加した弁護士
「自民党、杉田水脈衆議院議員の性暴力被害者への発言の撤回・謝罪・辞職を求めます」

□性暴力の被害者
「信頼して誰かに被害を打ち明けたときに、“嘘じゃない?”って言われて、(杉田議員の発言を聞いて)すごくショックでした」

自民党の杉田水脈議員が、9月に開かれた性犯罪について議論する会合で、“女性はいくらでも嘘をつく”などと発言。これに対し、性暴力の被害者や関係者たちを中心に、激しい抗議の声が上がったのです。

被害者たちは“嘘だと思われるのではないか”、そして“信じてもらえないのではないか”という恐れを抱いています。

2019年3月、名古屋地裁岡崎支部が下した判決が全国に衝撃を与えました。当時19歳の実の娘と性交したとして準強制性交罪に問われた父親に対し、無罪を言い渡したのです(控訴審で逆転有罪、現在上告中)。父親は、娘が中学2年だった頃から性的な虐待を続けていたといいます。

この判決に対し、娘が手記に綴ったのは、「信じてもらえなかった」苦しみでした。

被害少女のコメント:
「“逃げようと思えば逃げられたんじゃないか”、“本当にこんなことがあるのか”。信じてくれる人は少なかった。失望しました。疑わずに信じてほしかったです」

“信じ、寄り添う”女性弁護士

この”被害者を信じなかった”かのような判決に怒りをあらわにする女性がいました。

□弁護士(フラワーデモでの発言)
「岡崎の無罪判決が出て、私は打ちのめされました。中学2年から繰り返し強姦されてきても、加害者は無罪か。どんな国だよ、これが先進国かよ。恥ずかしいって思いました」


フラワーデモで憤りをあらわにする女性弁護士

女性に対する暴力の被害者を支える活動をしている、岡村晴美弁護士。これまでのDV相談件数は、1500件を超えています。

□岡村弁護士
「女性が言いたいけど言えないことを、代わりに言う。それが私の仕事。」

被害者を信じ、そして寄り添い、声なき声を代弁する女性弁護士に、密着しました。

DV被害から抜け出す苦闘に寄り添う

10月初旬。岡村弁護士がある女性の相談を受けていました。女性は、元夫から言葉の暴力を受け続け、今もその精神的支配による苦しみは続いているといいます。

□相談者の女性Aさん
「(元夫から)“おまえは神経質なやつだ”とか、“みんなに言われてるぞ、おまえはおかしいって”と言われていました。子育てのことも“おまえは俺レベルに達してないから権限はない”と。彼の正解が何かを探しながら暮らしていました」

□岡村弁護士
「それは精神的暴力です。身体的暴力は“殴ったよね”って言えるし、証拠が残りやすい。相手も“殴ってしまった”という罪悪感を持たざるを得ない。一方で精神的暴力については、証拠がないと言われやすいし、言われたらすごく傷つく」


女性からの相談は途絶えることがない

厚生労働省は「DV」について、身体的な暴行以外に、罵りや蔑みなどの精神的な虐待、さらに性的虐待などを含むと説明しています。

相談者の女性Aさんは、離婚した元夫と、子供についての調停を続けてきました。

□相談者の女性Aさん
「誰かがいないと抜け出せなかった。私は理解してくれる人(岡村弁護士)に出会えて良かった。そうじゃなかったら無理でした」

元夫との人生を終えることができた女性は、娘とともに少しずつ歩みを進めています。

娘に伝える「目を閉じないでほしい」

今年、弁護士になって13年目となる岡村弁護士。この仕事を志すきっかけとなったのは、自身が弱者の立場に立った辛い経験でした。

□岡村弁護士
「小学校のときにいじめにあって。教室で座っているだけで男子が机を蹴飛ばしてきて、文房具が散らばったのを拾いながら、死にたいと思った。
教室にいるとばい菌扱いされるから図書館で過ごしていたときに、弁護士の職を知って。
メンタル的に弱くなっちゃう人の気持ちは分かる。“終わったことでしょ”、“なかったことでしょ”という言葉は傷つく」


岡村弁護士と長女

大学を卒業した後、レジ打ちや家庭教師などのアルバイトをしながら、独学で司法試験に挑戦し、31歳で見事合格。弁護士になりました。

その前年に、長女を出産。仕事中は厳しい顔つきが多くなりがちな岡村弁護士ですが、自宅に帰ればすっかり母の顔に。現在高校2年生の長女と盛り上がるのはアイドルの話です。

□岡村弁護士
「関ジャニ∞にのめり込んでいって」

岡村弁護士には、日頃接する性暴力被害者と同年代の娘の姿を重ねあわせて、思うことがありました。

□岡村弁護士
「自分の子どもが (被害に)遭うかもしれない世の中で”気にするな”“そんなことあるわけない”と対応する大人になってほしくない。娘と同世代の子が (被害に)遭っていることに、娘には、目を閉じないでほしい」

「お母さんを無視しろ」元夫からの言葉の暴力

弁護士になって始めの3年間は、交通事故や労働問題などにも関わっていたという岡村弁護士。その後、女性に関する問題をメインに担当するようになりました。多いときには1日に3件もの裁判や調停が入ります。

もう1人、DV被害に遭った女性が取材に応じてくれました。元夫から約30年にわたり暴力を受けていたといいます。

□相談者の女性Bさん
「今も週2~3回くらい夜中に悪夢で、自分の叫ぶ声で起きることがある。私の言うことすること全部受け入れないタイプの人だったんですけど、具合が悪くなったときに(元夫が子どもに) “お母さんを無視しろ”、“関わるな”って」


元夫は子どもに“お母さんを無視しろ”と命じたという

耐えられなくなったBさんは、岡村弁護士に弁護を依頼、離婚調停に臨みました。

□相談者の女性Bさん
「結婚してすぐ、夫婦生活を求められて、“ちょっときょうはごめんね”って言ったとき、すごい陰険な態度をとられて3日間無視された。“拒否された俺がどれだけ傷ついたか分かるのか”って言われた。それから拒否できなくなって」

□岡村弁護士
「拒否すると、自分が悪かったような罪悪感を持ってしまう」

□相談者の女性Bさん
「ある時、わたしと元夫の行為を、録画されて。パソコンで見せられて。ものすごくショックで」

□岡村弁護士
「それはつらいよ。誰でもつらいよ」

調停の結果、離婚は成立。夫と別の人生を歩み出しましたが、今も心のつかえはとれません。

□相談者の女性Bさん
「私DVを受けてるのかな?違うのかな?って。“DVだよ”って先生に言われて、楽になった」

しかしBさんは今も、過去の束縛から逃れられずにいるようでした。

□相談者の女性Bさん
「(元夫は)ひどい人ではなかったと思う。私が何も言わずに過ごしてきて、突然家を出たことで(元夫が)ダメージを受けたと思う。すごく罪悪感があるというか」

□岡村弁護士
「DVかDVじゃないかより、しんどいかしんどくないか。DVの人を成敗したいわけではなく、しんどくない生き方をさせてあげたいだけ」

「なかったことにしない弁護士に」

2020年6月、国は性暴力への対策を強化すると発表。法整備はもちろん、警察、病院、弁護士などが連携する切れ目のない被害者支援を目指し検討を進めるとしています。

弁護士の役割への期待が増すなか、岡村弁護士がいま力を入れるのは、次の世代の育成。この日は若手の弁護士や司法修習生の研修会を実施していました。


オンラインでの参加者もいた若手の研修会

□岡村弁護士
「日本で性暴力を受けたことのない女性を探すほうが珍しい。ちゃんと聞いて分析して、どうするかを一緒に決めていくことが重要」

□参加した若手弁護士
「セクハラの判断基準としては、どんなものがありますか?」

□岡村弁護士
「セクハラは厳しい基準で雇用主に義務が課されているので、国の判断基準を指針とする。国はセクハラを暴力だと言っています、という」


若手にかける言葉に力がこもる

思いもよらない現実を突きつけられる、弁護士の仕事。それを受け止める術を伝えています。

□岡村弁護士
「当事者が伝えられないことを、弁護士も伝えなかったら、“なかったこと”にされてしまう。モットーにしているのは、“声を上げることができずにいる被害に遭った人を、笑顔にすること”。」

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