序 章 猫を描く人
もしも猫が人であったなら。人が猫であったなら。
多くの人が抱く夢想ですが、突き詰めた絵師といえば、この人をおいて他にいないでしょう。根っからの猫好きで知られる浮世絵師の歌川国芳《うたがわくによし》を紹介します。
落合芳幾 国芳死絵 名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション)
第1章 くらべてみる
展覧会の幕開けとして、擬人化して描いた作品と、共有されていたイメージを具体的に見くらべてみることで、擬人化表現の魅力を再発見していきます。
歌川国利 新版猫の玉のり 個人蔵
新版玉のり尽 個人蔵
歌川国芳 流行猫の曲鞠 個人蔵
錦江斎春艸 墨摺報条 風流曲手まり(部分)個人蔵
第2章 擬人化の効能
擬人化世界の入り口としてまず、人ならぬものが主役の異類物《いるいもの》を、つづいて昔ばなしや戯画《ぎが》、風刺画《ふうしが》など、江戸時代から明治にかけての擬人化作品を紹介していきます。
これらを眺めていくことで、擬人化することによりどのような効能が引き出されるのか、感じていただけることでしょう。
鼠草子絵巻 巻五(部分) サントリー美術館蔵
※会期中、場面替を行います。この場面は7月2日~24日まで展示します。
鶏鼠物語絵巻貼付屏風(部分) 名古屋市博物館蔵
化け猫草子絵巻(部分) 個人蔵
※会期中、場面替を行います。この場面は7月2日~24日まで展示します。
第3章 おこまものがたり
天保13年(1842)、山東京山と歌川国芳によって、猫のおこまの一代記をあらわした合巻《ごうかん》(長編小説)『朧月《おぼろづき》猫《ねこ》の草紙《そうし》』が刊行され、人気をよびました。異類《いるい》(人にあらぬもの)の婚礼儀礼をつづった「嫁入物《よめいりもの》」の流れのなかに同書を位置づけながら、「おこまものがたり」の継承と広がりを明らかにしてきます。
浮田一惠 狐の嫁入図(部分) 名古屋市博物館蔵
山東京山作・歌川国芳画『朧月猫の草紙』六編 個人蔵
歌川国利 しん板猫のはなし 個人蔵
第4章 人、猫になる
天保12年(1841)、歌川国芳《うたがわくによし》による団扇絵《うちわえ》「猫の百面相《ひゃくめんそう》」が流行します。猫を人のように描くのではなく、実在する人間の歌舞伎役者を猫に見立てて描くという趣向は、これまでにない新機軸でした。こちらは「もしも、あの有名人が猫になったら?」というアイデアが起点になったものといえるでしょう。
「猫の百面相」流行の様相と展開をみていきます。
歌川国芳 猫の百面相 忠臣蔵 個人蔵
団扇絵とよばれる浮世絵版画。その名のとおり、団扇の骨に貼って団扇として使用されました。
よく見ると骨の跡があるのが分かります。つまり、わざわざ骨から外して大事にしまわれた結果、今に伝わったことが想像できます。
歌川国芳 亀喜妙ゝ 名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション)
[特集] おしゃべりな顔、百面相
『朧月猫の草紙』や「猫の百面相」を発表する少し前から、国芳は「百面相」なる絵を手掛けるようになります。表情だけでその人がどのような状況に置かれているのかを滑稽に表したものです。「猫の百面相」との関係を探りつつ、国芳の「百面相」を見ていきます。
花笠文京填詞・歌川国芳画『写生百面叢』名古屋市蓬左文庫蔵(尾崎久弥コレクション)
歌川国芳 戯画笑百面 まけせうぎ ほか 個人蔵
第5章 国芳のまなざし
いかに対象を観察し、描くか。そしてアイデアをどのように膨《ふく》らませ、形にしていくか。「百面相《ひゃくめんそう》」で培《つちか》われた画才は、そのまま猫の戯画《ぎが》にも結実しています。国芳の観察力や的確な表現力とともに、次から次へとあふれでるユーモラスなアイデアをお楽しみください。
歌川国芳 流行猫の狂言づくし 個人蔵
終 章 もしも…。
展覧会の最後にもういちど、歌川国芳が擬人化猫作品を集中的に描きはじめた頃の作例をご覧いただきます。
浮世絵師、歌川国芳の溢れる才と魅力を存分にご堪能ください。