プロ20年目・山本昌 好調の秘密
〜2003年9月4日(木)〜

このところ精彩を欠いているドラゴンズだが、そんな中、今年20年目を迎え たベ テラン・山本昌が非常にいい働きをしている。現在6連勝中、しかも8月は4回 登板 して4勝と絶好調で、一時は井川を抑え防御率トップに躍り出たほどだ。
 昨日のジャイアンツ戦も、彼の真骨頂ともいえるゲームだった。序盤に3点を 失い ながら追加点を許さず7回まで投げ抜き、8回、遂にドラゴンズが逆転。最後に 大塚 がサヨナラ弾を浴びたため勝ち星こそ逃したが、重量打線相手に見せた粘りのピ ッチ ングは流石だった。考えてみれば、開幕からずっとローテーションを守り、先発 で投 げ続けているのはマサだけなのだ。いま38歳だが、年齢を感じさせないこの活 躍ぶ りには理由がある。

 5年前、ドラゴンズの投手コーチとして山本昌を指導した時、私が驚いたのは 彼の 並外れた基礎体力である。
 春の沖縄キャンプで、私は投手陣の下半身を鍛えよう と、 坂道のあるトウモロコシ畑を10周ランニングするよう命じた。山本昌には、3 0代 のベテランということを考慮し「半分の5周でいいぞ」と言ったところ、なんと 彼は 「いや、大丈夫です」と特別扱いを断り、しっかり10周走り抜いたのである。 途中 で音を上げる若手投手たちもいた中で、そのタフネスぶりは一際目を引いた。
 試 合前 の練習でも、他の投手たちが談笑しながら軽く練習をしている横で、山本昌だけ が黙々 と走っている姿をよく見掛けるが、こういう不断の努力があって、強靱な肉体は 生ま れたのだ。

 そしてもう一つ、精神的な強さも見逃せない。春先はせっかく好投しながら打 線の 援護に恵まれないケースが多く、4月・5月でたった1勝と思うように勝ち星が 伸び なかったが、それでも決して腐らなかったことが、その後の6連勝につながった とい える。打線との噛み合わせが悪いとついつい野手を恨んでしまいがちだが、「今 は打 てなくてもいつか必ず打ってくれる、それまで辛抱して自分のピッチングを続け よう」 ・・・実はこういう心構えが、味方の援護を呼ぶのである。ところが精神的に未 熟な ピッチャーは援護を待てず、先に自ら崩れて行く。若手投手たちには是非、山本 昌の 粘り強さを見習って欲しいところだ。

 ところで9月3日現在、山本昌の防御率は3.01でセ・リーグ3位、 タイ トルを十分狙える位置にいる。ただ競争相手が井川、上原、木佐貫と、いずれも 抜群 の安定度を誇るピッチャーなので一筋縄では行かないだろうが、井川は優勝と2 0勝、 上原は完投記録、木佐貫は新人王に奪三振王と、それぞれ別な目標もあるため、 意外 と大量失点を食らうケースがあるかもしれない。自らタイトルを狙いに行って墓 穴を 掘るパターンもあり得るが、こと山本昌に限ってはそんなことはないと断言しよ う。 なぜなら彼は決してタイトルに固執しない男だからだ。あくまでチームの勝利が 第一、 そこで自分がどれだけ貢献できたかに価値を求めるタイプで、その積み重ねの結 果、 今の好成績があるといえる。無欲のピッチングがタイトルに繋がることを祈りた い。

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