落合新監督就任 ドラゴンズはどう変わる?
〜2003年10月17日(金)〜

 ドラゴンズの新監督が、落合博満氏に決定した。候補者がいろいろ挙がる中、三 冠王 3度という輝かしい実績と卓越した打撃理論を持ち、しかもOBであるにも拘わ らず 本命視されなかったのは、「オレ流」と呼ばれる現役時代の一匹狼ぶりが世間に 「監 督向きではない」 というイメージを与えていたせいだろう。正直、私も就任のニ ュー スを聞いた時は驚いたが、よく考えれば、球団フロントはいい選択をしたのでは ない か。

 落合がジャイアンツに在籍していた3年間(94〜96年)、私は投手コーチを 務め ていたので彼のことはよく知っている。確かに独自の調整法を貫き「オレ流」と 言わ れたが、それは普通の練習法では生ぬるいと思っていた からで、本筋は決して外 して いなかった。しっかりとした野球理論と信念に基づく行動で、わがままを言って いた 訳ではない。
  従って采配は型破りというよりむしろ常識的で、戦法も極めてオー ソドッ クス、奇をてらった野球はしないと思う。そして選手の能力を見抜く眼力も持っ てい るので、起用法は適材適所、選手に対して実力以上のことは要求しないだろう。 しか し持っている能力は100%発揮させる、やれることをやらない者に対しては厳 しく 接する はずだ。

 「今の戦力を底上げすれば優勝できる」と就任会見で言い切った のは、 ドラゴンズナインの潜在能力を既に把握しているという自信の表れに他ならない 。 表面上はクールに見えるが、現役時代の落合は「勝ちたい」という意欲が人一倍 強い 選手だった。だから陰で人の何倍も練習し、あれだけの実績を作ることが出来た のだ。 ジャイアンツ時代にもこんなことがあった。宮崎キャンプ中、私は知人に頼まれ 、彼 の個室に「オチ、悪いな」と何度かサインを貰いに行ったことがある。そのたび に落 合は「ああ、いいですよ」と気軽に引き受けてくれたのだが、朝訪ねても夜訪ね ても、 彼は常にバットを握っていた。部屋の中で、しかもアグラをかいて座っていても 、で ある。寝ても覚めてもバッティング・・・まるで手の一部のようにバットを操る 技術 は、こういう日常の努力から生まれたのだ。

 コーチ経験がないことを云々する向きもあるが、現役時代の落合は既に「存在自 体が コーチ」だった。私は後藤や井上真一(先日巨人コーチに就任)に教えているの をよ く目にしたが、直接指導しなくても、彼のフリーバッティングを真剣に見ている 若手 は多かった。そのバットスイングの速さ、正確なミート術など、誰が見ても勉強 になっ たからだ。まだ新人の頃の松井もその一人である。
 また守備の際も要所でファーストからピッチャーの元に駆け寄り、配球や相手打 者の 狙い球についてアドバイスを送っていた。私もマウンドに行った時、彼の意見を 耳に するたびに「よく見ているなあ」と感心したものだ。若手の相談にもよく乗って いた し、巷で言われているような面倒見の悪い男ではなかった。指導者経験は初めて でも、 十分監督が務まる器の持ち主だと思う。

 いよいよ今日17日からナゴヤ球場で秋季練習が始まる。これが落合監督の初仕 事に なるが、まず選手たちにどんな挨拶をするのか、第一声が楽しみだ。



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