発足から10年 FA制度の問題点
〜2003年12月10日(水)〜

このオフにFA宣言した選手の中で、動向が最も注目されていた西武・松井 稼頭 央選手の ニューヨーク・メッツ入団が決定した。昨年の松井秀喜選手に次いで、今年も 日本 球界を代 表するスタープレーヤーが海を渡ることになったが、まだ行き先が決まらない 高津・ 下柳両 投手もメジャー移籍を視野に入れており、今や日本人選手にとってFA制は国 内移 籍の手段 でなく『メジャーに行くための制度』 になってしまった感がある。

  導入から10周年ということで、『スポーツスタジアム』では先週・今週と 2週 にわたり 3人の球団フロント経験者(元西武/ダイエー球団代表・坂井保之氏、元オリ ック ス球団代 表・井箟重慶氏、元広島スカウト・木庭教氏)に現行のFA制度について意見 を伺っ たとこ ろ、ご覧になった方々から大きな反響を頂いた。特に坂井氏の『資金の豊富な 球団 がFAで 選手を獲りに行くのは立派な企業努力であって、むしろFAを積極的に活用し ない 球団の方 が問題である。そういう球団は淘汰されればいい。それがビジネスだ』という 意見 に対して は『暴論ではないか』という感想が多く寄せられた。
 そこで、オリックス・広 島と いう『選 手を奪われてきた球団』 にいたお2人に登場願ったのだが、共通していたのが 『一 部球団に 有力選手が集中する現状はあまりに問題、プロ野球は運命共同体という意識を 持つ べきだ』 という意見だった。
  プロ野球を単純にビジネスとして見た場合、坂井氏の意見は確かに正しいの かも しれない が、資金力に余裕のある球団が一部しかない現状では、井箟氏・木庭氏の言う 『戦 力不均衡 を正す新しい制度を作るべき』 という意見もやむを得ないだろう。

  FAを最も積極的に活用している巨人でコーチをやって来た私個人の意見を 言わ せてもら うと、現場レベルでは、現在のFA制度はメリットより弊害の方が多いように 思う。 確かに 2000年のようにFA選手が優勝に大きく貢献した年もある(工藤・江藤) 。だ がそれは むしろ稀なケースで、FA選手が来ることでチームの中に微妙な『不協和音』 が生 じる事の 方が多い。考えてみれば当然の話で、チームにコツコツ貢献してきた選手の年 俸よ り、FA で来た選手の年俸の方が圧倒的に高いのだから、生え抜き選手が『俺がこれま で積 み重ねて 来たものは何だったんだ』と虚しくなるのも無理はない。そういう思いが選手 の中 にあると いざという時にチームが一丸となれないものだ。
  本来、プロ野球選手の年俸は実績に応じて決めるべきもので、まだ何もチー ムに 貢献して いない選手にいきなり大金を払うからこういう問題が生じるのだ。格差を調整 する ためには 他の選手の年俸も上げて行かねばならない。それが球界全体の人件費アップに つな がり、資 金力のない球団の経営を圧迫→有力選手を放出→ますます戦力不均衡が進む と いう 悪循環に なっている。FAで得た補償金を選手獲得でなく経営に回しているようでは、 その チームの 先細りは避けられないだろう。
  またコーチとしては、FA選手の扱いにも神経を使わねばならない。最初か ら金 額に見合 う働きをしてくれれば問題はないのだが、先にも言った通り、そういう例は稀 であ る。逆に プレッシャーに押し潰され低迷すると厄介だ。チーム内から『何だアイツは、 あん なに貰っ ているクセに』という声も出てくるし、フロントからは『何とかしろ』と言わ れる。
95年 に広島からFA移籍してきた川口がそうだった。先発から中継ぎに降格となっ たが、 ショッ クを受け、渋る本人を説得するのには骨が折れた。広島ではエースだった彼の プラ イドも尊 重せねばならないからだ。翌96年はストッパーに回って胴上げ投手になった が、 自信を回 復させるまでやはり時間が掛かった。野手では移籍直後の清原も同じ道を辿っ たが、 FA選 手に無定見に金を渡し複数年契約を結ぶ今のやり方は、現場にとっても選手に とっ ても百害 あって一利なしだ。ダウンが妥当な成績でも、その年がFA年に当たれば逆に 年俸 が上がっ たりするのは、どう考えてもおかしいだろう。これはフロントだけでなく、連 盟・ 選手会も 含めて考えて行くべき問題だと思う。

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