流れを取り戻すことの難しさ・兆しは見えたか
―1ヶ月ぶりに思い出した勝利の味―
“優勝候補””打倒磐田の一番手”そう言われたことは事実だ。第3節、市原戦に完勝するまでは、その看板に偽りはなかった。その時から約1ヶ月もの間、あれほど簡単にたぐりよせていた(ように見えた)勝利を手にすることができないとは、選手も、サポーターも思ってはいなかっただろう。それぐらい、あまりに急速に訪れた「失速」だった。いつ出られるか分からないトンネルに入っている時の不安と焦燥から解放されたのは、やはりホーム、瑞穂だった。
4連敗の中で迎えた第8節。相手はJ2転落の危機が迫っている広島。これまでの相性も悪くない。勝つ可能性は低くはないはずだ。今日こそは大丈夫。今日こそは…。そんな空気に包まれた中でのキックオフ。しかし序盤は動きに滑らかさを欠いた。オイルが補充されていない機械が煙を吐きながら懸命に動こうともがいているように見えた。最終ラインから中盤までは細かくリズム良くパスがつながる。しかし肝心のゴール前になるとパスの出し手、受け手の一体感が欠けていた。ゴールが近づくほど手詰まりになる、これは第1ステージ不振にあえいでいた時の“凶兆”だった。
楢崎初め守備陣も久々の笑顔だ
そんな重苦しい雰囲気を変えたのは、やはり最も分かりやすい勝利への近道「ゴール」だった。前半19分、左サイドの平岡直起からライナー性のクロス、それまでにパスで広島DFを振りまわしておいたことでこのクロスボールに5人の選手が反応していた。ニアサイドのヴァスティッチの足には届かなかったが、ファーサイドに走り込んできていたウェズレイの右足に当たると、ポストを叩いてゴールマウスの中へ。鎖を断ち切ろうとする選手の強い意識が生んだ先制点だった。
この先制点で劇的に動きが良くなったか、というと確信は持てない。最大の課題でありベルデニック監督が最も頭を痛めているサイドから崩す攻めはこの日も目立ったものは出せずじまい。2トップへのマークは相変わらず厳しく8連勝時のような前線でのタメが作れない。中村直志のファインゴール、ロスタイムの原竜太のダメ押しゴールなどで3−1でものにはしたが、全体的には落ち着きのある時間が少なく、やっとタイムアップの笛までたどり着いたという感じだった。
それでも、終了後の瑞穂を包んだ空気はこの日の天気のように澄み切った、さわやかで軽やかなものだった。勝利という結果を事実として残すことの重さを、スタジアム全体が感じているようだった。8連勝の頃には考えられなかった感情。しかし失っていた自信を再び体内にみなぎらせるきっかけになる勝利となった。
「ミスは確かにあった。しかし今日は勝つことが大事だった。また自信を取り戻してくれると思う。今のチームにはそれこそが大事なのだ。」(ベルデニック監督)「一つ負けて、そこから連敗脱出がこんなに時間がかかるとは思っていなった。1勝するのは難しい。」(楢崎)
試合後のコメントは正直だった。それほどこの1ヶ月の苦悩は深かったのだ。それは優勝という目標がこれまで以上に現実的なものとして視野に入っていたということの裏返しとも言える。好調の浦和、完全優勝をあきらめない磐田らを逆転するというのはかなり苦しい状況ではあるが、この経験を糧にしない手はない。トンネルを脱した今こそ、そこまでで味わってきたことを力にしていくチャンスなのではないか。
このあとジーコジャパンの初陣となるジャマイカ戦にむけ日本代表に合流する楢崎はこうも言った。
「負けて合流するのと勝って合流するのは気分が違う。新しい代表だから、いいスタートにしたい。」
。
いいスタート、はチームにとってもいえることだ。しびれるような緊張感が求められる本当の大一番が訪れた時、この経験は生きてくる。そしてそんな時を創っていくのは、ほかならぬ自分達自身だ。
取材:大藤晋司
[2002.10.13]
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