中京テレビのドローンアナウンサー鈴木康一郎にせまる

ドローンに興味を持ったきっかけは福島県での災害報道
中京テレビのアナウンサーでありながら、ドローンの国家資格である二等無人航空機操縦士の資格を持ち、自らドローンを操縦しながらその映像で中継もこなす鈴木康一郎アナ。
そんな”ドローンアナウンサー”として活躍する背景にせまっていきます。
<インタビュー>
入り口は3.11の取材で福島県に訪れた時のことです。
もともと私は2013年から4年間福島県のテレビ局で働いていて、中京テレビに転職してからも、東海地方と東北のつながりを探して東日本大震災の取材を続けてきました。
原発事故や津波災害があった場所に、2019年、産業の復興拠点としてロボットテストフィールドが開所されました。そこに愛知県春日井市の企業(株式会社テラ・ラボ)が進出してドローンの研究開発を始めると聞き取材をしたのが、ドローンとの出会いでした。当時すでにドローンで土地の測量を行うのみならず、飛行機型のドローンまで開発されていて、ドローンの可能性ってすごいなぁと感じたのを今でも鮮明に覚えています。
中でも強く印象に残っているのが、ドローンが人の命を守ったという話でした。東日本に甚大な被害をもたらした2019年の台風19号。台風が過ぎ去った直後、テラ・ラボの皆さんがドローンを飛ばすと、更なる土砂崩れの危険性が高い場所が明確になったといいます。ドローンの映像をもとに「この後雨が降ったら危ないので気を付けてください」と自治体や消防に伝えたそうです。すると、その後の雨で予期していた土砂崩れが発生。事前に住民の皆さんは避難していたことで助かったそうです。普段確認できない場所を上空から撮ることができるわけですから、命を守る報道につながるかもと思ったのがドローンに興味をもったきっかけです。
その時に自分もドローンを飛ばしてカメラマンとしてのスキルも身につけたら、見える景色も変わるだろうし、出てくる言葉も変わるかなと思いましたね。
それで最初は中古のMavic Airを買ってみました。自宅の中でドローンを飛ばして壁に激突させたり、夜にプロペラ音を響かせてみたり、妻からはかなり煙たがられていたと思います。
でも、まさか仕事に使うようになるとは思ってもみませんでした。
あさドレ♪が生んだドローンアナウンサーとしての役割
基本的にドローンは映像撮影なので、自分の仕事である“しゃべり”とはなかなかつながらなかったのですが、転機は今担当している朝の番組「あさドレ♪」でした。仕事としてのカタチが見えてきましたし、社内含め周囲の人に“ドローンアナウンサー”として認知いただくきっかけになったと思います。先日イベント会場では「ドローンアナだぁ」と言われた時は、正直うれしかったですね。
あさドレ♪では「ドローンアナ鈴木康一郎のあさドローン♪」という中継を担当していて、ドローンカメラマンも、リポーターも私。ドローンを飛ばしながら中継リポートもする、というなかなか斬新な取り組みです。
企画として最初に飛ばしたのは2024年11月の郡上八幡城の紅葉中継でした。
写真から分かるように、中継当日の郡上八幡城はあまり紅葉が進んでいませんでした。それでも、普段見たことない映像だからなのか「きれいだったよ」とか「初めて見た~!」など、想像以上に周りの反応がよくて、2025年4月時点で8回ほど中継しています。
ヘリで空撮を行おうとする場合には、操縦士・副操縦士・カメラマン・リポーターの4人が必要なのですが、ドローン中継はそれを一人で担っているイメージです。
ドローンアナウンサーとして気を付けていること
なによりも法令遵守を意識しています。
ドローンに関わる法律には、航空法や小型無人機等飛行禁止法、民法などがあります。ルールを守りながら、テレビの生中継を見ている方々がどう受け止めるかという点も大事。ドローンや法律のことを知らない方々がほとんどだと思いますので、誤った理解・受け取り方をされないように気を付けています。
あさドレ♪の時間帯は、冬場には日の出前にあたることもあります。日の出前は、航空法上原則飛行が禁止されている「特定飛行」にあたりますので、国交省に許可・届出をしています。字幕で「特別に許可を得て撮影しています」と表記することで、誤解のないように心がけています。
加えて、とにかく飛行中にドローンが墜落しないように…と意識を集中させていますね。 通常の中継だとアドレナリンが出て気持ちが高ぶるのですが、ドローン中継に限っては“冷静”でいることを意識していて、そこのバランスが難しいと感じます。
また、通常は現場入りして事前に周囲の風景を見ながら「これを見たらこういう話をしていこう」と話の順番を考えるんですが、ドローン中継の場合は機体準備と中継回線チェックがあるので、事前に話す内容を整理する時間はほとんどありません。番組スタッフからも「ドローンを飛ばして見えた景色でグッときたものを撮って話してほしい!」と言われ、台本はあってないようなものです。
無事中継が終わった時は毎回安堵しています。しゃべりの反省のみならず、「ノーズインサークルもう少しうまくできたなぁ」など操縦の反省も尽きません。
国家資格を取得しようと思った背景
なによりも有事の時のためですね。
現状は特定飛行の許可については包括申請で補えますが、今後もし何か起きて緊急でフライトさせなければならなくなったときに申請で時間を取らないよう国家資格を取ることを決めました。
今後を見据えて、かつ機動力を考えて、という感じですね。
あとは国家資格を持っていることが、“信頼”につながればと思っています。
そこから「ドローンって国家資格があるんだ!」という発見になり、そらメディアでの国家資格取得者が増えたらいいなという思いもあります。
今後はどういった仕事に活用していきたい?
過去に旅行企画でドローンカメラマン×リポーターを担ったことがありますが、景色を撮るような企画はどんどん携わっていきたいなと思いますね。
そして、アナウンサーである自分が空撮もできることの大きいメリットは、最少人数&時間短縮で撮影ができることだと思っています。特に有事の時、災害時に現地に行く場合には、宿・食材・トイレの確保が難しいため最少人数で動く必要があるんですよね。
また災害時に緊急用務空域として指定されると、ドローンを飛行させることが難しくなるので、いかに早く現場に行けるかが大事になります。実際、能登半島地震の際にすぐにドローンを持って現地に入ったメディアは、緊急用務空域として指定される前に飛行させたのでドローンの映像を撮影できたそうです。第二陣でドローンを飛行させようとしたメディアは緊急用務区域のため飛行できませんでした。
ですので、最少人数で初動でドローンを飛ばし、その場でリポートもする。あさドレ♪でのドローン中継の経験が有事の際にも役に立つのではないかと思っています。このあたりの想いは原体験である福島県での災害報道取材から来ているなと感じますね。
今後も「空撮」と「しゃべり」のスキルを磨いて、様々な光景を伝えていきたいです。
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