INTERVIEWインタビュー

MIKI YAKATA

2018年4月に乳がんの摘出手術を受けてから、今年2022年でまる4年を迎える元SKE48メンバーの矢方美紀さん。コロナ禍で行動が制限される中、現在も治療を継続しながら、乳がん検診の大切さを伝える啓発活動を精力的に行なっています。そして声優になる夢も着実に叶え、活動の場を広げようとしている矢方さん。前回のインタビューから約2年を経て、彼女を取り巻く環境の変化や心境の変化、そしてこれからの展望を聞きました。

夢を叶えることで誰かの勇気に!

乳がんと向き合うのが
当たり前の日常になりました。

2年前、「ススメ」プロジェクトでインタビューをしていただいた時は、まだまだ将来への不安や焦りのようなものがあった気がします。手術から4年目を迎える今は、乳がんと向き合うのが当たり前の日常になってきました。2年前も今も、ホルモン治療と3か月に一度の通院を続ける生活は変わっていませんし、これからも続きます。治療、仕事、プライベートのバランスを考えながら、自分らしく生活のリズムを整えられるようになったのかもしれません。

ただ、時折不安に襲われることもありますよ。例えば有名人の方が乳がんを患ったという報道を目にしたとき、宣告を受けた時の自分と重ねて、ブルーになってしまうことも…。あと、大きな災害が起きたとき、治療や薬の服用を続けられるのか、ちゃんと自分の力で難局を乗り越えられるのかなど、あれこれ考えると不安になったりします。きっと5年、10年と節目を迎えていくうちに、環境と心境の変化は繰り返されるはず。毎年の乳がん検診で「異常なし」のお墨付きをもらいながら、肩の力を抜いて自分自身をブラッシュアップできたらいいなと思っています。

1日24時間はみんな平等
ムダ遣いしないよう工夫しています。

私はもともと時間の使い方がヘタなんです。でも、1日は24時間しかなくて、誰にも平等に与えられた時間。なるべく時間をムダ遣いしないよう、スケジュールを立てて行動するよう心がけています。3か月に一度の通院治療はかなり前に日程が決まるので、スケジュール帳にしっかり書き込んで最優先に。隙間時間は仕事の準備や声優のレッスンに充てたりしています。こうやってスケジュールを詰め込んでいると、乳がんのことをすっかり忘れている自分に気づきます。危うく薬を飲み忘れそうになることも(笑)。慌ただしいくらいが、私にはちょうどいいのかもしれませんね。

face to faceでつながれるのも
オンラインツールが普及したおかげです。

乳がんを患ったことをSNSで公表して以来、乳がん検診の啓発活動や講演など、乳がんサバイバー(※)である私にできることを模索し、取り組んできました。ところがこのコロナ禍で、会場に集まるイベントがことごとく中止に…。外出を控える方が多くなった影響で、乳がん検診の検診率が低下していると聞き、焦りを覚えました。そんな時に各方面から「オンラインツールを使って矢方さんから乳がん検診の大切さを伝えてくれませんか?」と依頼をいただきました。実際にオンラインで開催してみると、参加者のお顔や、場合によってはお名前も分かりますし、リアルタイムでリアクションを受けられます。一度に大人数の方に見ていただける上、視聴する場所を選びません。私の発信をたくさんの方が視聴してくださることを知り、自分の存在意義を改めて認識しました。

「ススメ」プロジェクトのTwitterによる啓発企画の撮影をする矢方さん

私は乳がんの治療中なので、年に一度の検診は当たり前です。でも、世の中にはまだまだ他人ごとと思っていらっしゃる方が大勢いらっしゃいますし、外出を躊躇して検診を先延ばしにする方もいらっしゃいます。そうした方達に一人でも多く問いかけ、自分ごととして考えるきっかけ作りができたらと、より強く思うようになりました。乳がんは誰が罹患しても不思議でない病。そして早期発見できれば治る病です。悲しい思いをする方が一人でも減るよう、これからも発信を続けていきます。

※がんサバイバー
がんの状態によらず、がんと診断された後のすべての経験を意味します。がんの診断を受けた人は、その瞬間から生涯にわたって、がんサバイバーとなります。家族や友人、ケアに当たる人々も、当人のサバイバーシップ体験から強い影響を受けるため、がんサバイバーに含まれます。

国立がん研究センター 社会と健康研究センターより引用

「自分の発言に責任を」
その思いで突き進んだ2年間でした。

「ススメ」プロジェクトのTwitterによる啓発企画で歌の収録。さすがの声で、難しいリズムにもすぐ対応!

2年前の「ススメ」プロジェクトのインタビューで「声優になる」と公言しました。それまでもプライベートで夢を語ることはありましたけど、オフィシャルな場でお話ししたのは、あの時が初めてだったかもしれません。言ったからには実現させないとカッコ悪いと思い、「声優になるために、今何をすればいいのだろう?」と自問自答しながら行動に移し続けてきました。そうこうしている内に、コロナ禍で思うように身動きが取れなくなって…。でも、ポッカリ時間が空いたことで「声優ってなんだろう?」と改めて考えることができたんです。“声優は原作者の意図を汲み取り、伝わるように演じ、視聴者と原作者の世界観がイコールで繋がった瞬間、任務が果たせるお仕事”これが私なりに導き出した答えです。なんとなく描いていたイメージが整理でき、お腹にストンと落ちました。それまでは「声優になりたい」「演じたい」という気持ちが先行していましたけれど、改めて声優の奥深さに魅了され、突き進みたい道だと確信できた気がします。

「シキザクラ」での声優デビューで
視野がグンと広がりました。

「声優になる」と公言したものの、実際になれるのは何年も先のことだと思っていました。そんな中、中京テレビの東海エリア発オリジナルアニメーション「シキザクラ」のオーディションを受けるチャンスをいただき、合格することができました!念願の声優デビューで演じたのは、ヒロイン「明神逢花(みょうじん おうか)」の姉「明神紅緒(みょうじん べにお)」という重要なキャストです。嬉しさが込み上げるとともに、身が引き締まる思いがしました。

現場に入ってみると、周りは経験豊富なプロの声優さんばかりで、圧倒されっぱなし。声優の台本にはセリフしか書いてありませんが、みなさんは物語の前後関係とか画面のポジションや角度など、瞬時に判断して演じていらっしゃいます。今は密を避けるために、人数を減らしたり、リモートでアフレコをするので、共演する声優さんの音圧や声の高さなどをイメージしながら発声しないといけません。身体だけでなく、脳のあらゆる部分をフル稼働させて、はじめて全うできる仕事なのだと思い知らされました。

そして、声優のお仕事をするようになって見方が変わったのが、喋りのプロフェッショナルのお仕事ぶりです。ナレーターやアナウンサーの皆さんの話術や言葉選び、発声方法や出演者へのフリなど、本当に参考になります!「あっ、これいいな」と思ったところは、どんどんインプットしています。また、声優さんだけでなく制作スタッフの仕事ぶりもリスペクトしてやみません。作品制作には裏方さんの周到な準備や編集が欠かせません。何から何まで感謝しっぱなしでした。また、「シキザクラ」に携わって、視野が広がったのと同時に自分の足りない部分が浮き彫りに。補うために日々勉強するのみです!

拠点を移すのではなく
拠点を増やしていくためのアクションです。

声優の駆け出しでひよっ子ですが、活躍のフィールドを広げるため東京へ行くことを決めました。以前は東京に「ハードルが高そう」「怖い…」というイメージを抱きがちでしたが、お仕事で行き来させていただくうちに変な先入観がなくなりました。「人生は泣いても笑っても一回だけ。この機会を逃したら一生後悔するかもしれない」と考えたら、今行くしかない!と覚悟を決められました。以前は反対していた母も、今回は応援してくれています。裸一貫じゃないですけど、生活に必要最低限のものだけ持って、東京で声優の道を切り拓きたいと思っています。

私の中では東京へ拠点を移すというより、活動拠点を増やすための一つのアクションと捉えています。だから名古屋を離れる感覚は全然ありません。名古屋は芸能活動をゼロからスタートした場所です。故郷の大分以上に土地勘があるし、友人知人もたくさんいます。オススメのお店を聞かれたら、店主の名前からおすすめメニューまでスラスラ答えられるほどですから(笑)。正直、13年もの長い年月を過ごすとは思っていませんでしたが、今は第二の故郷じゃなくて、故郷と同レベルに愛着がある場所です。3か月に一度の治療はこれからも名古屋で受けますし、お仕事をいただいたらすぐさま駆けつけます。名古屋とは親密なお付き合いが続きますので、これからもよろしくお願いいたします。

私が夢を叶えることで
勇気づけられる人がいると思うんです。

乳がんと宣告され「もうお仕事は無理かも…」と思ってからもう4年。今こうして夢に向かって一歩一歩進むことができるのは、治療にあたってくださった病院の先生方や、悩みや喜びを分かち合ったがんサバイバーの皆さんのおかげです。治療が辛くて気分が落ち込んだとき、病と闘いながら夢を追いかけている方々のSNSを見て、ものすごく勇気づけられました。今度は私がみなさんにエールを送る番です。私のように乳がんを患っても、夢に向かって前進しているという事実が、きっと誰かのロールモデルになるはず。確かな足跡を残して、道筋を作れたらいいなと思っています。

あと、人には必ず生きている意味があると信じています。その意味を見失ってしまったとき、前に進むのを諦めたり、自暴自棄になったりするのだと思います。芸能の仕事は、メディアを通じて広く情報発信できるというアドバンテージがあります。「どうせ自分なんて」と思う必要は全くないことを、私の言葉や仕事ぶりからお伝えしていきたいですね。そして皆さんの記憶に残る声優となって、今まで以上に発信力をアップしていきます。

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