INTERVIEWインタビュー

03 YUKO KIJIMA

藤田医科大学病院の乳腺外科教授。専門分野は乳腺外科学(診断・外科治療)で「整容性を考慮した乳がん治療に関する治療・研究」の第一人者。現役の乳腺外科医であり、女性という立場から、乳がんの正しい知識、乳がん治療の現状、そして今後の展望について聞きました。

正しい知識で向き合うために。

1990年代以降、乳がんは
女性の罹患率1位です。

1990年代以降、日本において乳がんは、女性のがん患者全体の約20%を占め、女性がもっとも罹患しやすいがんです。日本乳癌学会が統計を取り始めてから、一度も減ることなく増え続けているのが現状です。その大きな原因として考えられるのが女性のライフスタイルの変化。初産の高齢化や妊娠・出産の回数減少に伴い、授乳機会が少なくなったことが乳がん発症の危険性を高めています。

また、食生活の欧米化に伴う肥満も、閉経後の乳がん発症リスクを高めることが実証されています。年齢と乳がん罹患の関連をみると、30代から増加を始め、40代後半でピークを迎え、その後は加齢に伴い次第に減少していくパターンを示しています。いずれかの年齢層が突出して増加傾向にあるということはなく、若年層から閉経を迎えた世代まで、全体的に増える傾向にあります。

乳がんを「見つけにいく」つもりで
月1回のセルフチェックを。

乳がんは自分で見つけられる可能性がある稀ながんです。私も病院で乳がんの診療を行っていますが、7〜8割の方が自分の胸にできたしこりなど、異変に気づいて来院されます。テレビの影響が非常に大きく、乳がんを経験された芸能人の方が「こうやって見つけたんですよ」と、レクチャーしているのを見て、一緒にやってみたら見つかった、というケースが大変多いです。痛みなどの自覚症状がないことが多いので、ある程度大きくなっていても気づかないことがあります。 

自分で見つけにいくつもりで、月1回のセルフチェックをぜひ習慣化してください。普段から触っておくことで、変化に気づくことができます。おすすめの時期は月経が終わった直後。ホルモン環境的に乳房が一番やわらかく、異変を見つけやすい状態です。それを過ぎると排卵に向けて胸にハリが出てきて、強く押すと痛みを覚え、見つけにくくなります。閉経後はご自分の誕生日の日付や月の頭など、覚えやすい日を決めて毎月行いましょう。

異変を見つけた時は
乳腺外科かホームドクターに相談。

しこりや乳房の左右差、乳頭の湿疹やただれ、乳頭の先から分泌液が出るなど、異変を見つけたら次の乳がん検診を待たず、速やかにお近くの乳腺外科で診てもらいましょう。近くに乳腺外科がない場合は、かかりつけのホームドクターに相談してください。専門医でなくても症状を聞き、乳腺外科や大きい病院へ紹介状を書くなどしてくれるはずです。異変を感じたら、怖がることなく行動に移すことが早期発見・早期治療につながります。

極々初期の乳がんを見つけるための
「マンモグラフィ」というツール。

マンモグラフィは板と板の間に乳房を引き出して挟み、圧迫して薄く伸ばし、出来るだけ多くの部分を写すレントゲン検査です。こうすることで、しこりとして現れる前の早期乳がんを発見できる可能性があり、欧米では乳がんによる死亡者数を20〜30%減少させたとの報告があります。40歳以上の女性はマンモグラフィ検診を行うことで、乳がんによる死亡の危険性が減ることが証明されています。

日本では40歳以上の女性に対し、マンモグラフィを含む2年に1回の検診を推奨していますので、お勤め先や市町村で行っている集団検診は必ず受けましょう。ただし、マンモグラフィでも写し出せない場合もあるので、マンモグラフィで異常なしと診断されても、ご自分で異変に気付いた時は、乳腺外科またはかかりつけのホームドクターに相談しましょう。

乳房全摘出、乳房温存、そして
第3の選択肢「乳房再建」。

1970〜1980年代は、乳がんに罹患した場合、初期であっても乳房の全摘出しか選択肢がありませんでした。その後、乳房温存手術を行って、術後に放射線療法を施す乳房温存療法(※1)が行われるようになり、今から10年ほど前は乳がん手術において乳房の温存率が高いほど医師の実力が評価された時代もありました。しかし、乳房を無理に温存すると欠損部分が大きくなり変形をきたすなどの、乳房温存療法の限界が見えてきました。2013年からは再発のリスクがある部分は全て切除し、乳房の大きさや形を整える乳房再建(※2)が保険適用になりました。

それをきっかけに乳房切除と再建を希望する方の割合が増えて、乳房温存療法を逆転。全摘一択だった時代を経て、現在は乳房温存療法、全摘術後の乳房再建と、3つの選択肢から選べます。私たち専門医はそれぞれのメリットとデメリットを詳しく説明しますが、若い方で全摘出を選ぶ方もいれば、歳を重ねた方で乳房再建を望む方もいらっしゃいます。考え方やライフスタイルで選択は人それぞれ。納得がいくまで医師ととことん話し合いをし、ご本人の意思で選んでいただくことが大切です。

※1乳房温存療法は全ての乳がんに適応できるわけではありません。乳がんが広範囲にわたっている場合や、2つ以上のガンのしこりが同じ側の乳房の離れた場所にある場合などは乳房切除術が行われます。

※2乳房再建には自分の体の一部を使って行う自家組織による再建と、人工乳房であるインプラントで行う再建があります。再建を行う時期や回数などには個人差があります。

正しい情報を得るために
「日本乳癌学会」のHPを閲覧してください。

乳がんの疑いがあったり、乳がんと診断された場合、おそらく皆さん「乳がん 治療」「乳がん 検査」等、インターネットで何らかの検索をすると思います。ところがネットの情報は混沌としているのが現状です。「日本乳癌学会」や「国立がん研究センター」など、専門家集団が作っているホームページもあれば、民間療法や個人の体験談などを掲載したホームページが同列で挙がってきます。

不安を抱えている方は、ご自分の安心できる情報を求めて誤ったものまで収集しがち。情報に翻弄されてしまった患者さんに、全ての乳腺外科医が会っているはずです。誤った情報で発見や治療を遅らせてしまうのは、死亡のリスクを高めると認識していただき、ぜひ日本乳癌学会のホームページで、一般の方向けのガイドラインをご確認ください。何年かに一度、乳腺外科医が全ての内容を見直し、最新のデータにアップデート。悲しい思いをする方を一人でも少なくするために、今私たちがお伝えできる情報を、わかりやすく発信しています。

乳がんは決して珍しい病気ではなく
「がん=死」でもありません。

乳がんは乳腺がある以上、誰でも罹患する可能性があります。決して珍しいことではないのです。乳がんに罹患すると皆さん「なぜ私が?」と現実を受け入れられず、食生活やストレスなどに原因を求めがちですが、必ずしも単一要因ではありません。昔は「乳がん=乳房切除=死」というイメージでしたが、今はそれぞれの=(イコール)を≠(ノットイコール)にできる時代。

セルフチェックやマンモグラフィで乳がんが見つかったら「あ、私にもその時が来た」と冷静に受け止めて、速やかに治療へとお進みください。また、月に1回のセルフチェックや年に1回のマンモグラフィで異常が見つからなかったとしても、その結果はこの先乳がんにならない保証にはなりません。乳がんは誰の身にも起こりうる病気だということを、忘れないでください。

乳がん治療は日進月歩。
最適な治療を受ける権利を捨てないでください。

乳がんの治療は日進月歩。10年単位で驚くほど進歩しています。私は現在、乳房再建の一歩先を行く、乳房の整容性を考慮した乳がん治療について研究しています。乳がん治療における整容性とは、乳房の大きさや形、乳頭乳輪位置の左右対称性に優れていること、さらに乳房そのものの形状が整っていること、だと考えて取り組んでいます。女性として乳腺外科医としてメスを入れる以上、病変を取り去った上で、ご本人もパートナーも私も、がっかりしないような手術を目指し、日々研究を重ねています。まず、スリムであまりボリュームのない日本人女性に対する、整容性に優れた乳房部分切除術を確立しました。

次に、ボディイメージを尊重する生活習慣のある欧米で実践されている治療法を学びました。ふくよかな体型の患者さんに対しては、乳がんに対する乳房温存術の際に、乳がん部分のみならず、健常な部分も“余剰な組織”として切除し、残った乳腺組織で新しい乳房を形成することがあります。前述した整容性に優れた結果を出すために、あえてがんを根治することとは関係のない正常な部分も切除する手術法です。日本ではあまりなじみのないこの手術法について、私はこれまで10年以上この研究を続け、日本人女性でも欧米人女性と同様に、この手術法によりがんの根治切除と優れた整容性を得ることができることを明らかにしてきました。

今、目の前にいらっしゃる患者さんが乳がんを患い手術を受けたご自分の乳房を愛情をもって受け入れることができるように、そして、10年後、20年後の患者さんのため、未来の乳腺外科医の道しるべとなるよう、実績を重ねたいと思っています。

新たな治療選択肢が生まれても、その恩恵を受けるためには早期発見が第一条件。乳がんは自分で見つけられ、イコール死ではないことを十分に理解し、早期発見・早期治療する権利を捨てないでほしいと、声を大にしてお伝えしたいです。この記事をきっかけにして、乳がんへの理解を少しでも深めていただきたいと思っています。

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